家賃滞納が起きたときにオーナーがとるべき正しい対応策とは?

2023年03月31日

はじめに

現在の賃貸住居において、ある程度の期間家賃を滞納する入居者は全体の2~3%程度はいると言われています。しかしながら、近年ではコロナ禍によって収入が減少した世帯も多いため、家賃を滞納されるリスクは上がっています。

しかし、入居者が家賃を滞納したからといって強制的に退去を求めることは、違法行為にあたる場合もあります。そこで今回は、家賃滞納が発生したときのオーナーがとるべき正しい対応策をご紹介します。

1. 家賃滞納によってオーナーが抱える深刻なリスク

●すぐに退去を要請することができない

オーナーは、たとえ入居者が家賃を滞納しても、すぐに退去を要請することはできません。なぜなら、日本には借地借家法という法律があり、賃借人(入居者)の権利が強く保護されているからです。まずは書面などによる支払い請求を行うことになります。それまでの経緯などオーナーと入居者の関係性にもよりますが、オーナーが入居者に立ち退きを要請するには、最低2ヶ月以上の滞納歴が必要だと考えればまずは間違いないでしょう

●オーナー側に多大な時間、労力、費用などの負担がかかる

入居者が家賃を滞納した場合でも、退去を求めるのは簡単ではありません。家賃滞納者に対して退去を求める強制執行に至るまでには、多くの手順が必要で、オーナー側に時間・労力・費用などの負担がかかります。費用は、裁判所に支払う訴訟費用や強制執行費用だけでも、それぞれ30~40万円が必要で、それもオーナーにとっては大きな損害です。

●滞納家賃は5年で消滅時効を迎える

賃貸物件のオーナーにとってさらに不利なことは、家賃の滞納に消滅時効があるという点です。
家賃滞納の消滅時効は、借金に対するものと同じで5年と定められています。家賃を滞納している入居者に消滅時効を主張された場合は、時効の5年を超えた分の家賃を回収することはあきらめなければならない可能性が高いので、注意が必要です。

2.家賃滞納時にオーナーがとるべき正しい対応策を解説!

●家賃滞納者への催促から法的手段までの流れ

1. 支払いの催促

オーナー自ら、もしくは物件の管理会社がいれば管理会社に相談し、入居者に対し支払いを催促します。経験豊富な管理会社であれば、仲介業者として双方の立場をよく理解しており、第三者的な視点で理性的に対応してくれることでしょう
もちろんこの段階で弁護士に相談しておき、予想される様々なケースのシミュレーションをしておくことが、精神的ストレスを小さくするためのベストな方法です。
しかし、特に地方などでは、地理的な要因でなかなか弁護士にアクセスできない大家さんもいらっしゃるのが現実ですから、今回はそのようなケースを想定してご説明します。

2. 連帯保証人または家賃保証会社に連絡

管理会社を通じて入居者に催促しても家賃滞納が続く場合は、連帯保証人または家賃保証会社に連絡します。連帯保証人は入居者が家賃滞納をした場合に代わりに支払わなければならない立場にあるので、オーナーは連帯保証人に家賃を請求することが可能です。連帯保証人を設定していない場合は、家賃保証会社に連絡しましょう。連帯保証人や家賃保証会社から入居者に連絡が入り、今後の姿勢を改めてもらうことも期待できます。

3. 内容証明郵便の送付

入居者が家賃滞納をして2ヶ月ほどが経過し、連帯保証人からも家賃が支払われない場合は、入居者に対して内容証明郵便の送付による督促を行います。内容証明郵便は、督促を行ったことが証拠として残るので、のちに裁判が行われた場合には重要な参考資料になるのです。連帯保証人にも同じ内容証明郵便を送付しておくとよいでしょう。

4. 任意の明け渡しを請求

内容証明郵便を送付しても家賃滞納が続くならば、入居者に退去を求める行動を視野に入れます。この場合、家賃の回収はいったん頭から切り離して冷静に対応しましょう。先述のように、賃借人は借地借家法で保護されているので、強引な退去要請や高圧的な支払い要求は得策ではありません。入居者が任意で明け渡しを選択するような方向で請求しましょう

5. 法的手段(少額訴訟・支払い督促・立ち退き請求)

冷静に交渉をしても入居者の態度が改まらない場合は、法的手段を取ることもやむを得ません。法的手段には、「少額訴訟」「支払い督促」「立ち退き請求」の3つがあります。少額訴訟は裁判所で1回だけ審理を行う方法で、証拠が豊富で間違いなく裁判に勝てる場合に有効な手段です。支払い督促は審理を行わず裁判所からの督促を行ってもらう方法です。立ち退き請求は強制的に退去を求める訴訟で、一般的に半年以上の期間がかかります。
これらの手段は後で詳しく解説します。

●家賃滞納者への対応履歴・督促履歴の記録は残しておくこと

家賃滞納に対する督促を行う場合は、滞納の経過や督促の経緯を内容を書面に残しておく必要があります。具体的には、督促の実施履歴や、退去に関する交渉を行った際の対応履歴を記録しておくとよいでしょう。これらの記録は、のちに立ち退き請求による裁判を実施する際に、非常に重要な情報となります。

裁判には費用も時間もかかるので、緻密な準備が必要です。立ち退き請求を視野に入れているのであれば、裁判を有利に進めるために書面として記録し、大切に保管しておきましょう。

3.【要注意】オーナーがやってはいけない行為とは?

家賃滞納に対してオーナーが感情的になり入居者へ高圧的な督促や退去要請を行うと、違法行為に該当する可能性があります。入居者側から訴訟を起こされるおそれもあるので注意が必要です。オーナーがやってはいけない行為には、おもに次のようなものがあります。

  • 早朝や深夜に電話や訪問をする
  • 入居者の勤務先に電話する
  • 張り紙などをして家賃滞納の事実をさらす
  • 連帯保証人ではない人に督促をする
  • 無断で入室する
  • 勝手に物を撤去する

電話や訪問などで督促を行う場合は、貸金業法で規定されている「社会通念上不適当と認められる時間帯(午後8時~午前7時)」は避けなければなりません。同じく貸金業法では債務者の借入に関する事実を、債務者以外の者に明らかにすることは禁止されています。例えば、張り紙・立て看板などの方法で督促したり、債務者の勤務先などに督促したりする行為が該当します

また、連帯保証人以外の人に督促することも貸金業法で禁止されている行為です。無断で入室することは住居侵入罪に該当するので、オーナーといえども絶対にしてはいけません。さらに、勝手に物を撤去することは「自力救済禁止の原則(裁判などの手続きを経ないで権利を行使してはいけないというルール)」に違反します。

4.家賃滞納を解決するための法的手段

家賃滞納を解決するための法的手段には、おもに次の3つがあります。

①支払督促

オーナーに代わって裁判所から入居者に対し、滞納している家賃を支払うように督促状を送付してもらう方法です。督促状を送付するだけなので、実際に裁判を起こす必要がなく、時間や費用があまりかからないことがメリットです

入居者が支払督促に応じなければ給与や財産を差し押さえることもできるので、家賃滞納している金額を回収できる可能性があります。ただし、入居者に収入や資産がない場合など、「支払い能力がない」とみなされてしまえば、督促状を送付しても滞納分を回収できないため、効果が得られないことに注意しましょう

②少額訴訟

60万円以下の金銭債権を回収することを目的として裁判を起こす方法です。少額訴訟のメリットは、裁判が行われる回数が原則として1回のみなので、判決が出るまでに時間がかからないことです。家賃滞納の分を手早く回収したい・裁判に時間をかけたくない・家賃滞納の証拠が豊富で1階の審理で証拠を出し切れば必ず裁判に勝てるという状況にある、といった要素が揃っている場合には有効な方法かもしれません。

一方で、少額訴訟で請求できるのは金銭支払いのみです。立ち退きを求める場合には利用できません。また時間をかけて和解を検討することもできず、例えば「相手は「分割払いなら支払える」といっていますがどうしますか?」「「半額なら一括で支払えるのでそれで終わりにしてほしい」といっていますがどうしますか?」といった事項につき即断即決を迫られます。

このような特徴があるため、少額訴訟は、例えば「入居者の懐具合が把握できており和解にあたり速やかな判断が可能で、かつ滞納が一時的で引き続き賃貸借契約を続けても問題ない場合」といった、ごく限られた場合に用いられるべきだといえます。

③立ち退き訴訟

家賃滞納を続ける入居者に対して強制的に退去を求めて裁判を起こす方法が、立ち退き訴訟です。一定の条件を満たさなければならないうえに、オーナーにとっても覚悟が必要な方法で、法的手続きの中でも最終手段と言えるでしょう。

家賃滞納によって立ち退き訴訟を起こすには、入居者が2ヶ月以上の家賃滞納を続けていることと、入居者に家賃の支払いをする意思が認められないことの証明が必要です。支払いの意思がないことを証明するためには、先述の内容証明郵便による支払い督促が重要な証拠となります。

立ち退き訴訟の結果によって、裁判所が入居者の立ち退きを求めたら、入居者は退去しなければならず、拒否すれば裁判所の執行官によって強制的に退去させられます。

ただしオーナーにとっても解決までに半年以上の期間を要し、それなりの費用がかかるというデメリットがあることに注意しましょう。立ち退き訴訟を起こす場合は、時間や費用を無駄にしないためにも、確実に証拠をそろえておかなければなりません。

5.家賃滞納を未然に防ぐ方法とは?

家賃滞納を未然に防ぐには、おもに次の4つの方法があります。

①入居時の審査を正確に行う管理会社と契約する

家賃滞納のリスクを軽減する効果的な方法の1つは、入居時の審査を正確に行うことです。
つまりオーナーには、入居時の審査を正確に実施してくれる管理会社と契約することが求められます。書面だけではなく対面での審査や、年収や勤続年数の確認など、多岐にわたる項目で入居者を審査することがポイントです

②入居時に連帯保証人をつける

入居者の支払い能力に確実な信頼がもてない場合は、連帯保証人を設定することでも家賃滞納のリスクを軽減できます。連帯保証人はおもに家族や親族を選びます。入居者の身元が確かなものであることを証明する意味でも一定の効果があります

③家賃保証会社に加入する

最近は連帯保証人の設定を義務付けていない賃貸物件が多い代わりに、家賃保証会社への加入を義務付けるケースが増えています。もしも家賃滞納が発生しても、保証会社が立て替えてくれるので安心です。家賃の保証料は入居者が支払うので、オーナーの金銭的負担はありません。

④家賃の支払いをクレジットカード払いにする

家賃の支払いをクレジットカード払いにすることも、家賃滞納を防ぐ方法として有効です。なぜなら、口座引き落としの場合は残高が不足していると家賃滞納につながりますが、クレジットカード払いでは残高が不足していてもカード会社が立て替えてくれるからです

6. 家賃滞納トラブルを早期に解決したいなら、弁護士に依頼するのがおすすめ

家賃滞納トラブルを早期に解決したいオーナーには、法律の専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士に依頼するおもなメリットは次の3つです。

①入居者が真摯に交渉に応じる可能性がある

家賃滞納の解決を弁護士に依頼すると、弁護士がオーナーに代わって入居者と交渉にあたります。弁護士は交渉のプロであり、オーナーの権利を守りながら入居者にもプレッシャーをかけられるので、真摯に対応せざるを得なくなるでしょう

②労力と時間の節約につながる

入居者の家賃滞納が悪質であっても、借地借家法で保護されている限りオーナーは強引な督促や退去要請はできません。そのうえで早期解決するためには、法律の専門家である弁護士の力を借りることが有効です。訴訟などの法的手続きは煩雑なので、弁護士に任せたほうが労力と時間の節約になるでしょう

③オーナーの損失を最小限に抑えられる

交渉を弁護士に依頼する場合には費用が必要になるので、悩まれているオーナーも多いことと思います。しかし、家賃滞納が長引くと、すべての滞納分を回収することはますます難しくなります。オーナーの損失を最小限に抑えるためには早期の解決が得策です。たとえ弁護士費用がかかっても、早期解決を図ったほうが、結果的に損失を抑えることにつながります。

まとめ

家賃滞納を続ける入居者に対しては感情的な態度を取らず、冷静に対応することが重要です。入居者が借地借家法で保護されていることを常に念頭に置いておきましょう。連帯保証人の設定や確実な入居審査を行うなど、あらかじめ対策を講じておくことも、家賃滞納の防止につながります。

入居者があまりに悪質な場合は、最終的には立ち退き訴訟という方法もありますが、一般の方が自力で実行することはなかなか困難です。損失を最小限に抑えるためにも、問題の早期解決を図りたいときは、法律の専門家である弁護士に相談しましょう。

弁護士監修記事

弁護士 菊地 智史

弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI

杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応

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