強制退去執行までの流れとは?費用の目安も解説!

2023年03月01日

はじめに

契約違反などさまざまな要因により、賃貸物件の入居者に退去を求めざるを得ない状況があります。
ただし日本では、借地借家法などの法律で入居者の権利が強く守られています
家賃滞納などのトラブルがある入居者であっても大家・賃貸管理会社側による任意の交渉で退去させるのは難しいケースも多いです。
他方で、オーナー側が勝手に退去を実現させてしまうと不法行為として損害賠償を請求されるリスクもあります。

任意交渉からスタートし、最終的に強制退去の手続きに移るまでの正しい流れ・費用など、オーナー側が知っておくべき注意点を解説します。

1.強制退去とは?

強制退去は法律に従い手順を踏んでいく必要がある

家賃滞納などのトラブルがあるにもかかわらず、退去の交渉に一切応じない入居者(賃借人)がいたとします。
このような入居者に賃貸物件から退去してもらいたい場合、法律にのっとり「強制執行」を行う必要があります。

強制執行とは、裁判の判決で認められた「オーナーが入居者に建物の明渡しを請求できる」という権利を、法の力で強制的に実現する手続きをいいます。
①裁判に勝って判決が確定し最終的にオーナーの権利が認められる②この権利を実現するために強制執行を行う、という順番で手続きを踏んでいくことになります。
入居者が交渉に応じない場合、①裁判に勝つ②強制執行をする、という手続きを経なければ、強制的な退去を実現できないのが原則というルールになっています

実力行使に出ると刑事上の罪に問われることも

大家・賃貸管理会社側が、入居者賃借人を退去させる目的で「実力行使」を行うのは法律上禁止されている点に注意しましょう。
入居者を退去させるために鍵を交換する、無断で貸室へ立入る、貸室の中におかれた入居者の所有物を処分する、といった行為を、法は認めていません
かえってオーナー側が不法行為を行ったとされ、損害賠償を請求されるなど民事上の責任を問われかねません。

下手をすると、住居侵入罪や窃盗罪などの刑事上の罪に問われる可能性があります。

2.入居者を強制退去させるための条件とは?

家賃を滞納するなどの契約違反がある入居者であっても、すぐに強制的な立ち退きが可能になるわけではありません。
まずは、話し合いや文書のやり取りなど任意交渉でトラブル解決を図るのが先決です。
それでも解決の糸口が見いだせない場合の最後の一手が強制退去であることを覚えておきましょう

ではどのようなケースで裁判でオーナーの権利が認められ強制退去が認められるのでしょうか。
先例に照らすと、以下の条件に該当し入居者とオーナーの信頼関係が破壊されているといえる場合①裁判に勝って権利が認められ②強制執行による強制退去が実現する可能性が高いといえます。

3カ月以上の家賃の滞納

入居者の契約違反で最も多くみられるのが家賃の滞納です。
1カ月程度の滞納のみでは裁判に勝つのは難しく、強制執行による強制的な退去はほぼほぼ実現できません。
他方で、3カ月以上のまとまった期間の滞納が続けば、裁判に勝てる可能性は高く、強制執行による強制退去実現が望めます

ただし、3か月の滞納があれば100%強制退去が実現できるわけでもありません。

例えば「オーナーが修理を怠ったため建物に居住できなかった」という正当な理由があれば、裁判所が「家賃滞納にきちんとした理由があり、入居者とオーナーの信頼関係は破壊されていない」と判断するといった事態もありえます。

そのような事情も加味した上で①裁判に勝つ②強制執行を行うという段取りが可能かどうかの見通しを立てるために、早い段階で弁護士にに相談することが有効です。

入居者に明らかに支払いの意思がない

入居者に支払い意思がないことが明らかである場合も、①裁判に勝つ②強制執行という段取りが進可能性が高いです。
具体的には、正当な理由もないのに入居者から「今後絶対に家賃を支払うつもりはありません」という内容の文書送られてきてさらにSNS上でも入居者が同様の主張を公開しているなど、客観的にみて「支払いの意思がない」と認められる場合です。

そのような場合には裁判所も、「これでは入居者とオーナーの信頼関係は完全に破壊されている」と判断し、①裁判に勝つ②強制執行という段取りが成功する可能性があるといえます。

例外★悪質性の高い契約違反があること

賃貸借契約を交わす際には、建物を使う理由について、例えば「事務所として使用するため」といった使い方について約束がなされることがあります。
このような約束に背くことは、契約違反ということになります。

このような契約違反があまりに悪質な場合、例えば「事務所として静かに使用する約束であったのに違法な風俗店として使用している」といったような場合、裁判に時間をかけずに急いで強制退去を実現する必要が高いと判断されます。
このような悪質性の高い契約違反の場合には、例外的に、ある程度時間のかかる①②の段取りを踏むことなく、「建物明渡断行の仮処分」という手続きを使って、速やかに強制退去を実現できる可能性があります

ただし、これはあくまで、「悪質性が高く入居者を急いで退去させなければ回復不能な損害が発生する」といった限られた場合にのみ認められる手続きです。
通常の家賃滞納のようなケースであればやはり、 ①裁判に勝つ②強制執行を行うという段取りを踏む必要があります。

したがって、「明渡断行の仮処分は例外!家賃滞納の場合に強制退去を実現するには ①裁判に勝つ②強制執行を行うのが基本!」とお考え下さい。

3.強制退去執行までの流れを解説!

まずは任意交渉からはじめましょう

家賃滞納が続いている際、まずは入居者と任意の交渉を行うことから始めます。

仮に入居者と連絡が取れないなどの事情があっても、勝手に居室内に立ちいるなど強引な手段を実行するのは禁物であることは先に述べました。

その他にも例えば、大人数で押しかけて催促する、居室玄関付近に張り紙や立て看板などを設置して支払いを要求する、といった行為も「ナシ」です。
他には、勤務先・学校での催促行為なども、不法行為とみなされる可能性が高く、「ナシ」といえるでしょう。

また法律面以外の問題として、強引な催促は相手の心を頑なにし、オーナーさんが逆恨みのリスクを背負い込むことにもなりかねません。

媚びへつらったり極端な優しさを見せる必要はないですが、相手も人間であることは常に意識して交渉を行いたいものです。

任意交渉から強制退去執行までの流れ

家賃滞納などのトラブルが発生している入居者との交渉は、実際には以下のような流れで進めていきます。
まずはstep1~step3の部分に当てはまる任意交渉で入居者のスタンスを確認しましょう。
入居者が交渉に応じ、家賃をすぐに支払ってくれる場合はこの段階で問題解決ということになります。

しかし、交渉に応じる姿勢が見られない場合は、段階的に手順を踏んで強制退去執行に至る可能性が生じます。
step4~step7までが裁判から部屋の明け渡しまでの手続きを踏む形です。
入居者を最終的に強制退去させるには、以下の通り段階的なステップを踏まなければならず、1年以上を要するケースもあります

任意交渉から強制退去執行までの流れ

STEP1 家賃支払い通知を送る

家賃の滞納が確認されたら、支払いを促す「家賃支払い通知」を文書で送付します
入居者と話し合う時間を設けるなど直接的に督促するのもいいでしょう。
電話や訪問などで通知を 行い、解決の糸口を探ります。
ケースバイケースではありますが滞納分の分割払いなどの提案などを行うなど、譲歩する姿勢も大切です。

STEP2 連帯保証人、または家賃保証会社に連絡する

何度か根気よく支払いを督促したにもかかわらず、家賃が入金されない場合は次の段階です。
連帯保証人もしくは家賃保証会社に連絡し、家賃の支払いを請求します
連帯保証人などから家賃の入金が確認されそれ以降滞納がなければ、このステップで問題解決します。
加えて連帯保証人への影響から、入居者本人が支払うことが多いのもSTEP2です。

STEP3 配達証明付きの督促状・内容証明郵便の送付

支払いの督促に応じない、または滞納が長期間に渡って続いているときは配達証明付督促状・内容証明郵便を送付します。
滞納している家賃の金額、支払い期限などを記載しておきます。
内容証明郵便などの書面は裁判において重要な証拠となります。

STEP4 賃貸契約の解除

STEP3で記載した支払い期限までに家賃が入金されなかった場合、賃貸契約の解除を行います。
法的措置を検討することになります。

STEP5 明け渡し訴訟を請求する

入居人が督促などに応じなければ、客観的に「支払いの意思がない」と判断できます
そこで法的措置である明け渡し請求訴訟を提起します。
入居者に対して明け渡しを請求するのに加え、入居者本人・連帯保証人に対する未払い家賃(延滞金)請求を行います。
この際、債務者の財産に強制執行をすることができる執行文付与の申し立ても行っておきます。

STEP6 裁判・判決

明け渡し訴訟の提起後、双方の主張・立証を経て裁判所は和解を勧告します。
双方の話し合いがまとまらない、入居者が裁判に出席しないなどのケースでは裁判所が判決を下します。

STEP7 強制退去執行

明け渡し請求訴訟後、入居者が立ち退きに応じない場合は、強制退去の手続きを取ります。
これは和解の場合でも同様です。
オーナー側が裁判所に強制執行を申し立て、受理された後に入居者あてに催告書を届けます。
裁判所が「期日までに部屋を明け渡しなさい」という要求(催告)を記した文書です。

催告書を受け取った入居者は、定められた期日までに部屋を出て行かなくてはなりません
もし出て行かない場合は、裁判所の執行官による強制退去が実行され、家具や家財が撤去されます。

家賃を滞納している入居者が行方不明になった場合は?

入居者が家賃を支払わず、行方をくらましてしまった場合はどうなるのでしょうか。

まずは交渉相手が行方不明になってしまっても、今まで通りの交渉を行います。
電話連絡から訪問、連帯保証人に連絡を取るところまで同様です。

それでも入居者と連絡がつかない、支払いがない場合は「公示」による意思表示を申し立てます。
裁判所に対し、相手の所在地がわからない、相手が誰なのかわからない場合でも相手に意思を示したと認めてもらうための手段です。

公示を申し立てるには、相手から返送されてきた郵便物が重要な意味を持ちます
申請内容や書類に不備がなく、相手が所在不明であると見なされれば公示送達が認められます。
公示送達の許可が下りた後は、ご紹介した強制退去の方法に沿って手続きを進めることになります。

4.強制退去にかかる主な費用の目安

強制退去には法的手続きなどを含め、さまざまな費用がかかります。
ワンルームマンションでも総額100万円以上の費用がかかることもあります
強制退去で発生する主な費用の内訳について詳しく解説します。

①内容証明書費用

「誰が誰にどんな内容でどんな文書を送ったか」を明らかにする内容証明郵便は、基本の郵便料金に加えて別途費用が必要です。
一般書留としなければならないため、一般書留料+内容証明の加算料440円(2枚目以降は260円増)が別途かかります。

②裁判費用

訴訟を起こすときは、裁判所への申し立てを行う訴状に貼付する印紙代が必要です。
印紙代は固定資産評価額を基準として算出されるため、金額は物件によって異なります
一般的なアパートでは1万円前後だとされています。
その他、裁判所の通信費(必要な書類の送付にかかる切手代)がかかります。
裁判所によって異なりますが、通信費として6000円程度が予納金として必要です。

また、入居者以外の別人が物件に住むなどの事態が発生すると、強制執行が困難になります。
トラブル回避のため「占有移転禁止の仮処分」の手続きを行うケースも出てきます。
裁判所からこの仮処分命令を出してもらうためには、保証金を国(法務局)に預ける必要があります。
家賃の3~6カ月の金額が相場とされ、5万円のワンルームマンションでは、15〜30万円の保証金がかかる計算となります。
保証金は訴訟手続の終了後に返還されます。

弁護士費用

弁護士費用は、委任前のご相談の料金である相談料、事件を委任する際に支払う着手金、事件解決時に支払う報酬金があります。
当窓口では、相談料5,500円/30分(初回無料)、着手金16万5,000円、報酬金44万円〜でご案内させていただいております。
気軽に弁護士をご利用いただくため、初期費用を抑えた料金体系とさせていただいております。
事件をパターン化せず丁寧に処理する法律事務所ですと、着手金は20~35万円、報酬は40~50万円~が一般的なようです。

強制退去執行費用

建物明渡しの強制執行では、申し立ての際に執行官に対する予納金を支払う必要が生じます。
相手方の人数や裁判所によって異なり、おおよそ6~7万円くらいかかります。
執行官とは明け渡しの実務的な手続きを行う裁判所の職員のことです。
執行官だけでなく、業務をサポートする執行補助者に対しても費用がかかります。

部屋の広さや手続きを行う荷物の分量でさらに金額が加算されます。
一般的には30万円以上の費用が必要になると言われています。

強制退去執行の実費は入居者に請求できる

強制執行に至るまでを考えると、入居者に費用を請求したいと思う方も多いのではないでしょうか。
法律上、裁判所に納める諸経費や強制退去執行にかかる費用や荷物の運び出しなどを入居者(賃借人)に請求することは可能です。
ただし、「相手方の資産状況の問題から支払いが不可能なケースがほとんどである」と覚えておきましょう。
弁護士費用については、請求はできません。

5.弁護士に依頼するメリット

①入居者の真摯な交渉を期待できる

強制退去など裁判の手続きを行うのは、あくまで最終手段です。
できる限り早期に家賃滞納などのトラブルが解消できれば、コストも時間もかかりません。
弁護士のアドバイスの元、入居者とスムーズに交渉を進められるメリットは大きいでしょう。
また弁護士に依頼しているという事実は入居者にとってプレッシャーにもなり、真摯に交渉に応じてもらうことが期待できます。
その後の家賃滞納や原状回復義務違反といったトラブル抑止につながる効果も期待できます。

②労力と時間が大幅に軽減できる

法律は、立場の弱い賃借人(入居者)保護の要素を軸に制定されています。
家賃滞納などのトラブルがある入居者でも、法的な手続きを用いず強引に退去させることはできないのです。
今までご紹介してきたように、手順を踏んだうえで入居者と交渉しなければなりません。
手続きも煩雑かつ複雑です。
強引な手法だと判断されれば、逆に法律に触れるリスクもあります。

正式な手続きをふんで入居者の対応を行うには、法律の知識が必要になります。
法の専門家である弁護士に依頼すれば、迅速に手続きを行え、労力の軽減も図れます

③損失を最小限に抑えることができる

弁護士に依頼すると「費用がかかる」という懸念をお持ちの方もいるかもしれません。
ただ法律の手続きは専門外の人間には難しい部分が大きいのが実情です。
また時間もかかり、仕事など日常生活に及ぼす影響も少なくありません。

入居者対応に時間を取られてしまい、他の部分で機会損失を招いてしまっていた…という事態も考えられます。
ある程度費用はかかっても、業務のプロに依頼したほうが早期に問題解決を行える可能性も高くなります。

まとめ

家賃を滞納するなど問題のある入居者であっても、オーナー側が簡単に退去を言い渡すことはできません。
大家や賃貸管理会社の担当者の一存で鍵を交換したり、部屋に勝手に入ったりするなどの実力行使を行えば、罪に問われるリスクもあります。
電話や訪問、文書での通知、さらには話し合いを含めた任意交渉から開始し、円満に交渉することが大切です。

根気強く対応したものの、入居者との信頼関係が築けなければ明け渡し請求や強制執行なども検討します。
手続きが複雑で時間やコストもかかりますから、
弁護士に相談のうえで進めていくことをおすすめします。

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弁護士監修記事

弁護士 菊地 智史

弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI

杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応

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