2023年12月21日
はじめに
建築した、あるいは購入した住宅に欠陥があった場合、施主や購入者は多大な影響を被ります。また、大金を払って手に入れた夢のマイホームに不具合があったとわかったときの悲しみや憤りは、他人にはわからないくらい大きいです。
もしも建築・購入した物件に欠陥が見つかった場合はどのように対処すればいいのでしょうか?誰に相談すればいいのでしょうか?今回は不動産に強い弁護士が欠陥住宅の対処法をわかりやすく解説します。
目次
修理や代金の減額などが可能!欠陥住宅だった場合の対処法(=施工業者にできる請求)とは?
建築した、あるいは購入した住宅が欠陥住宅だった場合は、施工業者や不動産業者に対して「契約不適合責任(瑕疵担保責任)」を追及することができます。契約不適合責任とは売り主(請負人)が買主(注文者)に対して契約で定められた内容と異なるものを納品してしまったときに負わなければならない責任のことです。買主は引き渡されたものが予め契約で定められた目的物の種類、数量、品質と違っていた場合、売り主に対して契約の履行の追完、代金の減額、損害賠償の支払い、契約解除が請求できます。
住宅も契約時に通知されていないような瑕疵(不具合)が見つかった場合、契約不適合責任にあたり、当該住宅の注文者や購入者は施工業者や不動産業者に対して契約不適合責任を追及することができます。
1.欠陥部分の修補(=履行の追完請求)
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。
参照:改正民法第562条
売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
参照:改正民法第562条但書
前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
参照:改正民法第562条2項
家を建てる場合は施主と施工業者との間で「請負契約」が、建売住宅や中古住宅などを購入する場合は購入者と不動産業者との間で「売買契約」を締結します。そのため、住宅の施主もしくは購入者は民法第562条に定められている「買主の追完請求権」に基づき、欠陥住宅を補修するなどして契約に従って品質が保証されている住宅を引き渡すよう施工業者や不動産業者に求めることができるのです。
なお、民法第562条には「代替物の引き渡し」も手段として定められていますが、代替物として新しく建物を建てるとなると施工業者や不動産業者の負担が大きくなりすぎてしまうため、欠陥住宅の場合は瑕疵を補修するという対応がとられることが多いです。つまり欠陥住宅の建て直しまでは求めるのが難しいということになります。
民法第562条の但し書きには住宅の施主や購入者に「不相当な負担を課するものでない」ケースであれば、売り主は買主が要求した補修方法とは別の手段で契約を履行することができると定められています。
また、民法第562条2項には瑕疵が買主に責任がある事由によって生じた場合は追完請求できないと定められています。たとえば施主が注文間違えをしたり引き渡し前に物件に立ち入って破損させてしまったりしたケースなどは、契約不適合責任の対象外となります。
2.施工代金の減額請求を行う
前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
参照:改正民法第563条
前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
- 1.履行の追完が不能であるとき。
- 2.売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
- 3.契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
- 4.前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
参照:改正民法第563条2項
第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
参照:改正民法第563条3項
上記のように追完請求権に基づき住宅の施主や購入者が期間を定めて契約履行を求め、その期間内に施工業者や不動産業者によって補修などによる履行が追完されなかった場合、施主や購入者は施工代金の減額を請求することが可能です。
欠陥があれば、その住宅の価値が下がってしまうことになります。補修を行わない代わりに減少している金額分を安くしてもらう、あるいは返金してもらうことができるのです。たとえば3,000万円の住宅を購入し、瑕疵によって2,000万円にまで資産価値が下がってしまった場合、1,000万円分安くしてもらうか、返金してもらうよう請求することができます。
減額請求できるのは契約履行の追完(=瑕疵の補修など)がなされなかった場合に限りますが、何らかの理由で施工業者や不動産業者が追完不能な状態にあるとき、履行の追完を拒絶したときなどは事前に催告することなくすぐに代金の減額を請求することができます。
なお、やはり瑕疵が施主や購入者の責任で発生してしまった場合、減額は請求できません。
3.損害賠償請求を行う|施工不良に起因する損害が存在する場合
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
参照:参照:改正民法第415条
前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。
参照:参照:改正民法第564条
瑕疵があったことで施主や住宅の購入者が損害を被った場合、民法第415条および564条に基づき施工業者や不動産業者に損害賠償を請求することが可能です。具体的には瑕疵によって住宅の一部が使用できなくなった結果被った損害や、瑕疵によって人体や家財などに被った損害、転居に必要となった費用などが対象となります。たとえば雨漏りをして家具が腐食した場合の修理費用や、仮住まいのためのホテル代、転居のために必要となった引越代、事故が発生した場合の怪我の治療費などが挙げられます。
また、瑕疵によって事故が発生し施主や住宅の購入者が怪我をした場合、健康被害を受けた場合は、別途損害賠償を請求することが可能です。
4.契約の解除を行う|上限に合致すれば可能
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
参照:参照:改正民法第541条
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
- 1.債務の全部の履行が不能であるとき。
- 2.債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
- 3.債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
- 4.契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
- 5.前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
- 1.債務の一部の履行が不能であるとき。
- 2.債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。
参照:参照:改正民法第564条
施主や住宅の購入者が期間を定めて契約の履行を催告していたのにも関わらず、施工業者や不動産業者が期間内に契約を履行しなかった場合、施主や購入者は契約解除することが可能です。契約を解除すれば、その契約はなかったことになるため、代金の返還がなされます。
ただし、契約を解除できるのは事前に債務履行の催告があった場合のみです。また、不履行が軽微なものである場合は契約解除の対象外となります。
一方で、契約の全部もしくは一部の履行ができないとき、相手が履行を拒否したとき、履行不能な状態や履行を拒否された場合でかつ残存する部分だけでは契約の目的を達することができないときなどは事前の催告なしで契約を解除することが可能です。
欠陥住宅の相談窓口比較|メリット・デメリットを解説
以上のように、欠陥住宅の施主や購入者は施工業者や不動産業者に契約不適合責任を問うことができます。しかし、ご自身だけで追完や減額、損害賠償の請求や契約の解除などを求めるのは非常にハードルが高いです。まずは以下のような機関や専門家に相談してみましょう。
1.消費者ホットライン|電話で気軽に相談できる
消費者ホットラインとは全国の消費者センターに開設されている電話窓口で、商品やサービスなどの消費生活全般のトラブルに関して相談することができます。受付時間は土日祝日、年末年始以外の10時~12時、13時~16時です。
電話で気軽にトラブルの相談ができ、解決方法をアドバイスしてくれます。ただし、ナビダイヤルなので通話料が高くなってしまうことと、施工業者や不動産業者に対する交渉や請求、訴訟などの手続きまではしてくれないことは理解しておきましょう。
2.住まいるダイヤル|一級建築士による電話相談
住まいるダイヤルとは公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターが開設している住宅トラブルに特化した相談窓口です。受付時間は土日祝日、年末年始以外の10時~17時です。
電話で気軽に相談できる、住宅の専門家である一級建築士が相談員として在籍していて消費者ホットラインと比べると住宅トラブルに関してより踏み込んだ対応をしてもらえる、弁護士と面会して法的な相談もできるというメリットがあります。弁護士への相談は各都道府県の弁護士会で行います。
ただし、ナビダイヤルなので相談料が高い、相手方への交渉や請求、訴訟などの手続きは弁護士を雇って行わなければならないという点には注意が必要です。
3.弁護士に相談する|請求など具体的な措置のアドバイスから実行まで頼める
欠陥住宅にお困りの方、追完や減額、損害賠償、契約解除の請求を検討されている方は、法律事務所に連絡して弁護士に直接相談するという手もあります。
法律のプロが相談に乗ってくれるので安心感があり、欠陥部分の補修や返金、減額を請求できるかどうかの判断や、具体的な解決策などをアドバイスしてくれます。
上記の消費者ホットラインや住まいるダイヤルに相談しても、実際に施工業者や不動産業者と交渉、あるいは請求や訴訟をする場合は結局弁護士に頼ることになります。特に具体的に相手側へのアクションを考えられている方は、最初から弁護士に相談するというのも手です。相談から交渉、法的措置まで一貫して任せることができるので、より迅速かつ確実な問題の解決につながります。
デメリットとしては相談料や報酬がかかることです。ただし、初回は無料で相談できる事務所もあるため、とりあえず話を聞いてもらいアドバイスをもらってから今後どうするかを考えるという方法もあります。
欠陥住宅の責任追及を施工業者に行う流れ|5のステップを解説
ここからは施工業者や不動産業者に対して契約不適合責任を追及する具体的な流れを5つのステップに分けて解説します。欠陥住宅にお悩みの方はぜひ以下を参考にして解決方法を検討してみましょう。
1.責任追及の可否の検討|弁護士と最初に行う
まずは行動を起こすにあたって欠陥部分の補修や返金、減額、あるいは損害賠償や契約解除の請求などの法的措置がとれるかどうかを判断する必要があります。ここは一般の方ではなかなか難しい部分です。仮に法的措置がとれないようなケースでアクションを起こしても無駄になってしまうため、初期の段階で法律の専門家である弁護士に相談して、契約不適合責任が適用できるか?どのような方法があるのか?をいっしょに考えてもらうことをおすすめします。
法的措置がとれると判断された場合は、そのまま弁護士に交渉や手続きなどを依頼すればスムーズです。なお、法的措置ができるケースでは、弁護士への報酬なども施工業者や不動産業者に請求することができます。
2.欠陥調査の実施|欠陥の確認と客観的な証拠の確保
施工業者や不動産業者と交渉する、あるいは請求手続きを行うためには、欠陥の状況や必要となる補修の内容などを把握しなければなりません。また、業者が帰すべき事由による欠陥が存在していることを証明するための証拠の保全も必要不可欠です。そのため、建築士や住宅診断士などの住宅の専門家が客観的かつ正確に欠陥の実態を調べる欠陥調査を行う必要があります。
調査は弁護士と委任契約を締結した後に実施するのが一般的です。施工や販売をした業者が自ら欠陥調査を行うケースもありますが、欠陥を隠蔽したり虚偽の報告がなされたりすることも考えられるため、可能な限り第三者に調査を依頼しましょう。
3.施工業者との和解交渉の実施|最初は当事者間で話し合う
上記の欠陥調査を行い住宅に欠陥が生じていることが客観的に明らかとなった場合、まずは施工業者や不動産業者と話し合いをして解決を目指すことになります。交渉は弁護士に立ち会い助言をもらいながら本人が進めるほか、弁護士に委任することもできます。
欠陥調査の結果を踏まえて施主や購入者と業者がそれぞれ条件を提示し、和解に向けて話し合いを行います。和解が成立すれば以後の調停や訴訟などの法的措置は行わず、業者による追完がなされて解決です。
4.民事調停の実施|当事者間で解決しない場合に第三者を交えて交渉する
交渉で話し合いが決裂した場合はいよいよ法的措置に移る段階です。まずは裁判所に民事調停を申し立てます。調停とは裁判所で調停員が介入しながら当事者同士が話し合って合意の形成を図る制度です。
まずは管轄する裁判所に対して申立書を提出します。その後、調停期日が決定し、当事者が出頭して調停委員がそれぞれの主張を個別で聞き、調書を作成しながら和解の成立を手助けします。調停は本人の出頭が基本となりますが、弁護士に同席してもらうことも可能です。
和解が成立すればその内容も調書に記載され、これが裁判による確定判決と同一の法的効力をもちます。そのため、両当事者は調書の内容に従わなければなりません。
5.訴訟の実施|交渉で解決しない・交渉の意思がない場合の最終手段
当事者間での交渉や調停でも話がまとまらなかった場合、あるいは業者が交渉にまったく応じない場合は、裁判所で民事訴訟を起こすことになります。裁判を起こす裁判所は業者の本店所在地を管轄する地方裁判所、物件の所在地を管轄する地方裁判所、当事者があらかじめ定めた地方裁判所のいずれかです。多くの場合、請負契約書や売買契約書の「合意管轄」の項目で裁判所が指定されています。
まずは裁判所に訴状を提出し、訴訟を提起します。その後口頭弁論の期日に法廷で両者が主張を行い、その主張を裏付ける立証や証拠の提出を行います。口頭弁論は裁判官が判決を出せる材料が揃うまで何度でも行われます。また、裁判期間中に和解が成立した場合は、その時点で訴訟は終了となります。
口頭弁論によって立証された事実や証拠に基づき裁判官は判決を言い渡し、これに不服がある場合は2週間以内に控訴することができます。また、判決が確定した後に当事者がそれに従わない場合、裁判所に申し立てれば強制執行が実施されます。
◆まとめ
欠陥住宅はまず弁護士に相談するのが解決への近道
建築した・購入した住宅が欠陥住宅であった場合、施主や購入者は施工業者や不動産業者に対して交渉や調停、裁判を通じて契約不適合責任を追及し、追完を受けることができます。
相談窓口はさまざまありますが、具体的な行動を起こす場合はどうしても弁護士に頼ることになるので、最初から弁護士に相談して話し合いを進めるのが一番の早道です。また、弁護士に相談すれば追完を受けられるかどうかも早期にわかります。
立ち退きトラブル相談窓口では不動産に強い弁護士が在籍しており、欠陥住宅の対応も得意としております。なんでも気軽に相談しやすい街の法律事務所のような雰囲気で、相談者に寄り添う姿勢を大切にしています。初回相談は無料なので、まずはお悩みごとをお聞かせください。
弁護士監修記事
弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI
杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応