2024年02月26日
隣の土地との境界線を明らかにするためには境界線確定を行わなければなりません。その際にはお隣の人にも立ち会ってもらう必要がありますが、立ち会いを拒否されるケースもあります。
今回は境界線の立ち会い拒否で悩まれている方、いつまで経っても境界線が確定できず困られている方のために、立ち会いを拒否された場合の対処方法についてご紹介します。なお、個人では解決が難しいケースもあるので、状況に応じて弁護士への相談も検討してみてください。
目次
土地の境界線確定に立会いは必須?
冒頭でも触れたとおり、隣の土地の境界線をはっきりさせるためには土地測量を行い、両者立ち会い確認(境界立会)の上で境界線を確定します。しかし、そもそも立ち会いは必ずしなければならないものなのでしょうか?
立会いは拒否できるのか?
結論からいうと境界立会をお願いされたからといって必ずしも応じる義務はありません。あくまで境界立会は任意だからです。忙しいといった理由で断ることもでき、拒否しても罰則などはありません。
ただし、境界立会がないと境界を確定することができません。境界測量を行い、隣接する土地の所有者同士が立ち会って境界線を確認した上で合意を形成し、はじめて境界が確定されるからです。
境界線確定は土地を売却する、建物を建てるなど、土地を何らかの形で利用する際に必要となるため、立ち会い拒否をされてしまったら土地活用が進まなくなってしまいます。その結果、隣人との関係が悪化してしまうといった事態にもなりかねません。
詳しくは後述しますが、境界立会を行うことで両者にさまざまなメリットがあります。境界立会を依頼されたら、極力快く応じたほうが得策です。
土地の境界線を確定する意味
「どこまでが自分の土地なのか?」を示すラインのことを境界線といいます。国境をイメージするとわかりやすいかもしれません。国境を勝手に超えたり国境外の土地を勝手に利用できないのと同じように、我々も境界線を超えて隣の敷地にむやみに侵入したり建物を建てたりすることはできないのです。
しかし、土地の境界線が曖昧になっているという事例も少なくありません。特に測量してから期間が経っている土地、先祖代々受け継いできたような土地では、隣人との暗黙の了解でなんとなく境目がわかってはいるものの正確な境界線がはっきりしていないという状態のままになっているというケースも多いのです。
境界線には「筆界」と「所有権界」という2種類が存在します。筆界とは法務局に登記された境界線のことで、いわば正式な境界線です。一方、所有権界とは所有者同士の合意によって設定された境界線のことを指します。普段は所有権界に従って土地を利用しても大きな問題はそれほどありません。ただし、いざ土地を売却する、建物を建てるとなると、筆界を明らかにしておく必要が出てきます。そのために再度土地の測量を行い、立ち会い確認をし、両者で合意を形成するというプロセスが必要となるのです。
土地境界線の確定に立会うタイミングは?
まずは土地家屋調査士に土地の測量を依頼します。土地家屋調査士は土地の測量から登記まで、境界確定の一連の手続きを行ってくれます。ご自身で探すほか、法務局で紹介してもらうことも可能です。
その後、登記簿や公図といった測量に必要な資料を揃える必要もありますが、こちらも土地家屋調査士が行ってくれます。なお、図面など土地の現況がわかる資料をお持ちでしたら、土地家屋調査士に渡しましょう。
測量のためには隣接する敷地に入る必要もあるため、隣地の所有者に承諾を得る必要があります。測量の目的やスケジュールを説明し、この際に境界立会の依頼をします。
隣地への進入と立ち会いに同意が得られれば測定を行い、土地の所有者同士が境界線を確認し、境界確認書に両者押印した上で境界杭を設置します。測量で作成した図面や境界確認書は自治体に提出し、境界確認証明の交付がなされます。その後、法務局で登記申請をして完了です。これらの手続きに関しても土地家屋調査士が行ってくれます。
以上が境界確定の大まかな流れですが、隣人から境界立会を拒否されてしまったら測量以降の手続きができなくなってしまいます。したがって境界が確定せず、土地の売却や活用も滞ってしまうことになるのです。
土地境界線の確定に立会うメリット・デメリット
境界立会をして隣地との境界線を確定することでさまざまなメリットがあります。一方でデメリットもあるのも事実です。それぞれ見ていきましょう。
立会いをするメリット
まず境界立会をして境界線を確定させることで、土地の利用範囲が明確になります。「自分が土地をどこまで利用できるか?」もしくは「相手がどこまで利用できるのか?」を知ることができ、将来土地活用をする際にそれが役立つ可能性が大いにあります。
また、土地に関するトラブルを防ぐことも可能です。隣人が勝手に敷地内に侵入してきた、境界線を無視して土地を使っているということで紛争が発生することもよくあります。境界線をはっきりしておけばこうしたトラブルのリスクも軽減できるのです。また、土地の境界に関する紛争は前述のとおり先祖代々受け継いできたような土地で起こるケースが多いです。ご自身の代で境界線を確定しておけば、将来配偶者や子どもなどの相続人が土地を相続した後にトラブルに巻き込まれるリスクも軽減できます。
また、土地の測量費用を負担しなくてもよいというのも境界立会に応じる大きなメリットです。土地を測量する際には土地家屋調査士に測量費用を払わなければなりません。隣人が測量をして境界立会を依頼してきた場合、測量費は全額隣人が負担します。つまり無料で土地を測量した上で境界線を確定してくれ、以上のようなメリットまで享受できるということになるのです。
立会いの際によくあるトラブル
境界立会をして境界線を確定することで、デメリットも起こり得ます。まずは利用できる敷地が減ってしまうというケースが考えられます。場合によっては今まで使っていた部分が境界確定によって隣人の敷地であることが明確となり、使えなくなってしまうおそれもあります。ただし、その部分は本来隣人の敷地であるため致し方のないことです。だからといって境界立会を拒否すると、それ以上の弊害が発生するリスクもあります。。
境界立会を拒んでいると訴訟を起こされるおそれもあります。その場合、かなりの時間と労力を費やすことになり、最終的には裁判所の命令によって立ち会いに応じなければならなくなるケースもあり得ます。
加えて将来ご自身が土地を売却したり建物を建てたりなど土地を活用するために測量が必要になった際に隣人から協力が得られなくなってしまうというリスクも考えられます。「あのとき立ち会いに応じなかったじゃないか」と今度はご自身が拒否される立場にもなりかねません。そうでなくとも隣人との関係が悪化したら、今後その地域で生活する上でさまざまな支障が出ると考えられます。
境界立会で境界線が確定してしまうことでこれまでと同じように土地が使えなくなってしまうかもしれません。しかし、それでも後々のリスクを考えるとしっかりと立ち会われることをおすすめします。
土地境界確定の立会いを拒否されたときの対処法と注意点
以上のように極力境界立会には協力すべきですが、それでも何らかの理由で立ち会いに応じない人もいます。ここからは立ち会いを拒否されてしまった場合の対処法と注意点について見ていきましょう。
立会いを拒否されたときの3つの対処法
境界立会を拒否されてしまった場合、主に以下の3つの方法で対処することができます。
①測量の専門家に調査を依頼する
境界を確定する際には、土地家屋調査士という専門家が測量、立ち会い、境界杭や鋲の設置、図面や境界確認書などの書類の作成などを行います。仮に隣人に立ち会いをお願いして拒否されてしまった場合は、代わりに土地家屋調査士から隣人に交渉をしてもらうことも可能です。
土地家屋調査士はプロなので、相手を納得させる説明や交渉のしかたなども心得ています。第三者が立ち会いを依頼することで、すんなり応じてくれる可能性もあります。
②筆界特定制度を利用する
前述のとおり筆界とは不動産登記の際に決定された土地の範囲を示す境界のことです。筆界特定制度は筆界特定登記官が土地の所有者などの申請によって、筆界調査委員などの意見も踏まえて土地の境界を特定するという制度です。
一方が立ち会いを拒否している、あるいは両者の間で争いがあって合意が形成できず境界確定が不可能な場合は、筆界特定制度を用いて境界を確定することもできます。
③境界確定訴訟を行う
上記の方法でも境界を確定できない場合は筆界確定訴訟といって、立ち会いを拒否された側が原告として、拒否した人を被告として調停や裁判を起こして裁判所に判断を委ねることもできます。
筆界訴訟を起こした場合、判決によって境界線が決まり、それ以上は被告、原告とも不服を申し立てることができなくなります。紛争を解決する手段としては一番確実ですが、必ずしも原告側の意見が通るとは限りません。場合によっては原告、被告いずれの主張ともまったく異なる結論が出ることもあります。また、裁判を起こすとなると労力と費用がかかる点にも注意が必要です。
立会いを拒否されたときの2つの注意点
立ち会いを拒否された際に、それ以上無理に立ち会いを要求すれば、かえって別のトラブルにもつながりかねません。以下のような事態に発展するおそれもあるため注意しましょう。
①境界線に関する他のトラブルが出てくる可能性
境界確定が必要になるということは、裏返せばこれまで境界線が曖昧であったということになります。これまでは「お互い様」ということで、多少越境物があったとしても、あるいは相手の土地に侵入したとしても黙認していた関係が崩れてしまう可能性があります。
境界立ち会いを求められた腹いせに、隣人から「お宅の木が境界を超えてきている」「塀を境界上に立てられた」「うちの敷地内に勝手に入らないでほしい」などのクレームを言われてしまう事例もあります。
②隣人との関係悪化に繋がる可能性
境界立会を拒否した隣人との関係が悪化してしまうのも大きなリスクです。上記のように境界をめぐる揉め事だけでなく、些細なことでもクレームをつけてくるようになる可能性があります。
さらに関係がこじれると嫌がらせにも発展しかねません。いわれのない噂を立てられたり、ご近所同士のお付き合いに支障が出たり、挙げ句の果てには暴言や暴行をされるなど事件にもつながってしまうおそれがあります。実際に境界をめぐって重大なトラブルに発展した事例もあるため、十分注意が必要です。
土地境界線の立会いトラブルを弁護士に相談するメリット
境界立会を拒否されてしまった場合は、無理に要求を通そうとせず第三者に相談してみることも大切です。前述のとおり土地家屋調査士に間に入ってもらうという方法もあります。
また、法律に詳しい弁護士に相談するというのも有効です。弁護士は交渉の専門家であり、穏便に解決できるよう、相手に納得してもらえるよう、話し合いを重ねます。一方で訴訟を起こすケースも想定し、依頼人が有利になるよう交渉を進めてくれるのも弁護士に相談するメリットです。
この記事のまとめ
賃貸立ち退きトラブル相談窓口は不動産トラブルに強い弁護士が在籍している法律事務所です。境界のトラブル、立ち会いトラブルを解決した実績も豊富です。境界立ち会いの拒否で困られている方、穏便に済ませたい方は、ぜひ一度ご相談ください。
境界線トラブルについては、「隣地との境界線のトラブルのご相談」でも詳しくご紹介しています。ぜひ合わせてお読みください。
弁護士監修記事
弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI
杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応