2023年05月25日
目次
はじめに
消滅時効という制度があります。これは、ある出来事があって法律的になにかしら請求できる権利が発生しても、一定期間その権利を行使しないまま放置すると、期間の経過によりその権利の請求ができなくなってしまうをという法律上の制度です。
家賃滞納に関しても消滅時効があり、一定期間を過ぎてしまうと滞納分の家賃を請求できなくなってしまいますので注意が必要です。今回は家賃滞納の時効の考え方やオーナーが注意すべきポイントについて解説します。
1.家賃滞納の消滅時効とは?
家賃滞納の消滅時効の期間
それでは、家賃滞納の場合の消滅時効はどの程度の期間になるのでしょうか。民法では5年間と定められています。
消滅期間である5年を経過した後に、債務者である賃借人(家賃滞納者)が消滅時効を利用することを債権者である賃貸人(賃貸オーナー)に告げた場合、賃貸人は家賃を請求する権利を失ってしまうのです。
まずは5年という数字をしっかりと頭に入れておきましょう。
家賃滞納の時効の起算点とは?
時効を考える上で重要になるのは、「いつの時点から数えて5年とするか」という起算点です。家賃滞納の場合は、各月の家賃の支払日が起算点となり消滅時効は権利者が権利を行使できることを知ったときから5年となります。支払日に所定の金額が支払われず、かつ賃貸オーナーがなにもしなかった場合、その日から5年経過した時点で時効が完成します。
たとえば家賃の支払日が2023年4月30日であれば、そのちょうど5年後である2028年4月30日の0時0分になると、消滅時効により家賃を請求できなくなってしまうのです。
2.家賃滞納の時効が完成する4つの条件
ただし、家賃の支払日から5年が経過すれば必ずしも家賃の請求ができなくなってしまうとは限りません。以下の4つの条件にすべて該当する場合にはじめて消滅時効が完成するのです。家賃を取りはぐれないための重要なポイントとなるため、しっかりと押さえておきましょう。
① 最初の滞納家賃が発生してから5年が経過した
家賃は基本的に毎月支払うものです。また、賃貸借契約という性質上、賃貸人は賃借人に家賃を請求する権利を認識しているとみなされます。そのため、最初の家賃滞納が発生して5年経過した時点で消滅時効を迎えるということになります。
また、家賃は古い順から消滅時効を迎えます。たとえば2023年4月30日に支払う家賃の消滅時効は2028年4月30日に完成しますが、2023年5月31日の支払い分は2028年5月31日です。2028年5月1日時点では2023年4月30日支払い分は請求できないものの、2023年5月31日分については請求する権利を行使できます。
② 消滅時効が完成するまで家賃が一切支払われていない
消滅時効が完成するポイントとして「債務の承認」があるかどうかも重要となってきます。債務があることを債務者が認め、履行する意思があることを表明した場合、債務の承認があるということになり、消滅時効が中断されるのです。
たとえば2023年4月30日に滞納した家賃の一部を2023年5月31日に支払った場合、消滅時効が更新され、残りの延滞分の消滅時効は2028年5月31日となります。
③ 貸主が滞納家賃の回収手続きを行っていない
賃貸人が滞納家賃の回収手続きをしたかどうかも大きな分かれ目です。家賃滞納者に対して滞納家賃の請求を行うことで、消滅時効の完成猶予(6か月の間時効の完成が先延ばしにされること)と更新ができます。
ただし、「家賃を支払ってください」と口頭で請求をしたり督促状を送ったりしただけでは消滅時効は更新されません。あくまで「6か月の先延ばし」でしかありません。あくまで訴訟や調停など、裁判を通じて請求を行うことで、はじめて消滅時効の更新がなされます。
④ 賃借人が賃主に消滅時効を援用した
援用とは、ある事実を持ち出して自己の利益を主張する、あるいは相手の要求を拒むことです。消滅時効は単に5年経過したら自動的に完成するわけではありません。賃借人が賃貸人に対して「消滅時効を援用する」という意思を表明することで完成します。逆に言えば賃借人が援用の意思を表明しない限り、5年を経過しても家賃請求は可能ということになります。
3.家賃滞納の時効を更新させる方法
●時効の更新とは?
時効の更新とは、それまでの時効期間がなかったことになり、また新たな5年間の時効期間がスタートすることです。前述のとおり、債務の承認や滞納家賃を法的に請求するなどの方法で時効を更新できます。2023年4月30日に滞納した家賃は2028年4月30日に消滅時効を迎えますが、2028年4月1日に更新すれば5年後の2032年4月1日が時効となります。
特に消滅時効が迫っている場合は、時効を更新させることも有効な手段の一つです。
●家賃滞納の時効を更新させる方法とは?
■借主に債務を承認してもらう
債務があることを債務者が認識し、履行する意思を表明すれば、債務の承認があったとみなされ時効をその時点で更新できます。前述のとおり、滞納している家賃の一部として仮に1円でも支払えば、賃借人は債務の承認を行ったことになります。全額を回収するのではなく、まずは一部だけでも支払ってもらうように交渉してみましょう。
■簡易裁判所で支払い督促を申し立てる
滞納した家賃をまったく支払ってくれないのであれば、支払いの請求を行って消滅時効を更新させるしかありません。とはいえ、口頭で行うだけでは不十分であり、法的に督促をしていく必要があります。
まずは簡易裁判所に支払督促を申し立てましょう。この方法であれば裁判を起こさなくても延滞家賃の支払い請求を法的に行うことが可能です。簡易裁判所から賃借人に対して「仮執行宣言付き支払督促」が送付され、賃借人が2週間の間に異議を申し立てない場合は時効が更新されます。
■訴訟や調停などの裁判上の請求を行う
家賃を確実に回収したい、再三請求しても支払いがなく居直っているなどの滞納状況が悪質な場合などは、訴訟や調停といった裁判上の請求を行うことも検討する必要があるかもしれません。
調停は裁判官を交えて当事者同士が話し合い、問題の解決を目指します。訴訟は民事裁判を起こし、勝訴判決という形で裁判所から被告(賃借人)に対して滞納家賃の支払いが命じられこの判決が確定すれば、時効は更新されます。
●家賃督促の際にオーナーが気をつけるべきこと
家賃を支払ってほしい、滞納している賃借人に対して腹が立つという気持ちもよくわかります。しかし、感情的な行動は違法行為に該当してオーナーが処罰されるおそれがあります。時効の更新も難しくなるので注意が必要です。以下のような行為は絶対行わないようにしましょう。
- 早朝や深夜に電話や訪問をする
- 入居者の勤務先に電話する
- 張り紙などをして家賃滞納の事実をさらす
- 連帯保証人ではない人に督促をする
- 無断で入室する
- 勝手に物を撤去する
◆まとめ
家賃滞納には消滅時効があり、5年間で滞納家賃の請求ができなくなってしまうおそれがあります。一方で時効が完成するためには条件を満たしている必要があり、時効の更新もできるため、諦めるのはまだ早いです。
消滅時効が完成しているかどうかを判断するのは難しいです。また、時効を更新させるためには催告書の送付や裁判所への申立、場合によっては調停や訴訟などの法的手段によって請求を行う必要があるかもしれません。消滅時効の期間が差し迫っている場合にはとりあえず内容証明郵便などで支払いを催告し、6か月間事項の完成を引き延ばすという手もあります。しかしこれは根本的な解決にはならず、あくまで調停や訴訟を始めるための準備期間を確保するというくらいの意味だととらえておくのが安全でしょう。
消滅時効が完成しているかどうか不安、時効を更新させたい、確実に家賃を回収したいという方は、まずは法律の専門家である弁護士に相談されることをおすすめします。
弁護士監修記事
弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI
杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応