2023年06月26日
賃貸物件から入居者に立ち退いてもらうためには、立ち退き料を支払うことがあります。この立ち退き料とはどのような性質のお金なのでしょうか?どれくらい支払えばいいのでしょうか?
この記事では立ち退き料の基礎知識から相場、費用の決め方などについて解説。なるべく安く抑えるためのコツやスムーズに立ち退き交渉を行うためのポイントについてもご紹介します。立ち退き交渉をしていて立ち退き料をいくらに設定するか悩まれている賃貸物件オーナー様必見です。
1.立ち退き料とは?
立ち退き料とは?
立ち退き料とは普通借家契約を締結している状態で、貸主(オーナー)が借主(入居者)に対して契約解除の申し出を行った際に、借主に対して支払う金銭のことを指します。入居者に退去してもらう代わりに、物件のオーナーは立ち退き料を支払います。
法律では立ち退き料の明確な金額や計算方法は、具体的には定められておらずケースバイケースです。そのため、貸主と借主が話し合って決定します。
立ち退き料は、正当事由を補完する要因となる
立ち退き料については、借地借家法第28条で定められています。賃貸借契約の解除や更新拒絶を行う場合、「正当事由(解約を申し入れる際に必要となる事由)」が存在することが求められます。立ち退き料の支払い(財産上の給付)は正当事由の正当性を補完・構成する一部です。
他の事由も含め総合的に判断して、それらが「正当である」と認められる場合にのみ、貸主は借主に対して立ち退きを求めることができるようになります。つまり、立ち退き料を支払って正当性を補うことで、立ち退きを認められる可能性が高くなるのです。
立ち退き料は、正当事由の程度によって調整される
立ち退き料は正当事由を補完するものです。正当事由が強い場合は立ち退き料が少なくて済みますが、正当事由が弱い場合は、多くの立ち退き料を支払って補わなければなりません。
勘違いしてはいけないのは、「お金さえ払えば出ていってもらえる」ということにはならないという点です。正当事由が何もないのに、貸主が立ち退き料を払って一方的に借主を退去させるようなことはできません。立ち退きを求めるのは正当事由が存在することが前提であり、その上で借主が退去する際には立ち退き料を支払う必要があります。
立ち退き料が請求できないケースとは?
■定期建物賃貸契約の場合
立ち退き料を支払わなくてもよいケースとしてまず挙げられるのが、定期建物賃貸借契約を締結しているケースです。定期建物賃貸借契約とは期間の定めがある賃貸借契約のことです。この場合は正当事由の有無に関わらず、契約期間が満了したら貸主は借主に対して物件の明け渡しを求めることができます。
■賃借人が契約違反をした場合
借主が契約違反を犯した場合も立ち退き料を支払うことなく契約解除をすることができます。たとえば家賃の滞納や目的外転用、借主以外の第三者への無断転借などが挙げられます。
とはいえ、契約違反があったからといって直ちに借主を追い出すことはできません。契約違反を正当事由とする場合は、貸主と借主の間の「信頼関係の破壊」が要件となります。たとえば家賃滞納であれば滞納期間が3ヶ月以上続いて、はじめて正当事由として認められると考えられます。
■取り壊し予定建物の賃貸契約の場合
一定期間後に取り壊す予定があることが法令上または契約上明らかな建物の賃貸借契約を締結した場合も、契約終了時に立ち退き料を請求することはできません。取り壊し時に契約が終了することを前提として賃貸借契約を締結しているからです。
2.立ち退き料の相場はどれぐらい?
立ち退き料に規定はない
前述のとおり、立ち退き料の金額は特に法律で規定されているわけではありません。立ち退きを求める事情はそれぞれ、貸主と借主の関係性も個々で違うので、相場もありません。ただ、ケースごとにおおまかな目安はありますので、それを参考にして検討してみましょう。
戸建て賃貸の場合の立ち退き料の相場
一戸建ての賃貸住宅からの立ち退きを求める場合の立ち退き料の目安は家賃の6~12ヶ月分といわれています。たとえば家賃が月15万円であれば、90~180万円ほどとなります。
前述のとおり法律で決められているわけではなくあくまで目安としての基準になりますが、一般にアクセスしづらい情報や複雑な計算方法を使わないシンプルな考え方として、踏まえておくとよいでしょう。
アパート・マンションの場合の立ち退き料の相場
過去の判例ではアパート・マンションの場合、家賃5~10万円の一般的な物件であれば40万円~200万円の範囲で立ち退き料を支払っているケースが多く見受けられます。交渉の際には、家賃の6ヶ月分と引越しに必要となる費用をプラスした金額というように考えておくと、賃借人の理解も得やすいのではないでしょうか。
これもあくまで目安ですが、参考値として覚えておくとよいでしょう。
店舗や事務所など商業利用物件の立退料の相場
お店として貸していたり事務所として貸しているような物件については、居住用と比べて立退料が高額になる可能性があります。特に、再開発が立退きの理由であり、家主自身による利用の必要性が乏しいような事例ですと、立ち退き料は高額化しやすくなります。
このような場合には、立ち退き料の交渉を始める前に、一度弁護士に相談しておくことを強くおすすめします。
3.立ち退き料の内訳
①移転にかかる費用
いわゆる引越し費用です。荷造りや運送をしてもらう引越し業者に支払う費用、不要となった家具や家財道具の処分費用、引越し先の敷金・礼金、家賃、不動産会社への仲介手数料、保険料などが含まれます。
②通信環境の整備にかかる費用
今や情報通信は欠かせないライフラインです。転居先の電話線の整備やインターネット環境の整備にかかる費用も立ち退き料でカバーします。
③慰謝料や迷惑料
引越しを行うとなると非常に手間がかかります。また、見知らぬ地に転居するのは大きなストレスがかかるものです。場合によっては入居者本人や家族の仕事や学業に影響が出るかもしれません。立ち退き料には入居者に対する迷惑料や慰謝料の意味合いも含まれています。
④借家権の補償
借家権は賃貸借契約によって借主が得られる権利のことを指します。借主は家賃を支払うことで物件に住む権利が与えられますが、立ち退きを要請することでその権利を奪ってしまうことになります。貸主が立ち退き料を支払うということは、借家権を補うという意味合いも含まれています。
4.立ち退き料を安く抑える9つの方法
①誠意をもって交渉する
まずは誠意をもって入居者と話し合いをしましょう。ただ「出ていってほしい」と言うのではなく、退去してもらう必要性をしっかりと説明し、立ち退き料を支払う姿勢があることを示しましょう。入居者に納得してもらうことでスムーズに退去してもらえ、結果として立ち退き料を抑えることにつながります。
②入居者数が少なくなってからとりかかる
たとえば建て替えが決まったら新たな入居希望者の募集はストップし、現在の入居者の自然退去を待ち、空室率が7割~8割になった頃で残った入居者と交渉するという形で進めていけば、立ち退き料の総額を抑えることができます。交渉の手間も削減できるので、一石二鳥です。
③定期借家契約への切り替えを提案する
前述のとおり、定期借家契約であれば契約満了時に契約が終了するので、立ち退き料を支払う必要はありません。建て替えが決まったなど、入居者の立ち退きが必要になったタイミングで契約の切り替えも検討しましょう。ただし、2000年3月1日以前に締結された普通借家契約については、定期借家契約に切り替えられませんので要注意です。
④代わりの物件を提供する
他に物件を所有していれば、その物件を転居先として紹介するのも手です。新しい住居をしっかりと確保してあげることで、立ち退き料を安く抑えることができ、他の物件の収益アップにもつながります。また、物件を保有していなくても、転居先探しをサポートすることでやはり入居者の不安や不満の解消につながり、立ち退き料を抑えられる可能性があります。
⑤契約解除事由の有無を確認する
入居者が契約違反を犯している場合は、それを正当事由として立ち退き料なしで退去させることもできます。たとえば家賃を数ヶ月に渡って滞納している、ペット不可の部屋でペットを飼っている、住居用の物件を店舗や事務所などの事業用途に使っているといったケースが挙げられます。ただし、契約解除を理由に退去させる場合、揉めるリスクもあるので注意が必要です。
⑥原状回復を免除する
借主が賃貸物件を退去する際には原状回復を行う義務が生じ、その費用を負担しなければなりません。退去してもらう条件として借主の原状回復費用の負担を免除することで、立ち退き料を抑えることもできます。特に建て替えにともなって立ち退きを求める場合、どのみち建物を解体してしまうので有効な手段といえます。
⑦敷金を先に返済する
敷金は家賃の不払いや原状回復費用に備えるため、貸主が借主から預かる金銭です。これを先に返金することで、借主の心証が良くなり、立ち退き料を安く抑えられる可能性もあります。建て替えの場合は前述のとおり原状回復の必要性が低いため、家賃の不払いなどがない限り、先に敷金を返金してしまってもいいかもしれません。
⑧再入居を確約する
入居者が現状の物件に住み続けることを希望している場合、建て替え後の物件への入居を確約するというのも有効です。それほど生活環境が変わらず、かつ建物が新しくなるため、入居者から喜んでもらえる可能性もあります。
⑨退去までの賃料を免除する
退去までの家賃を免除するか大幅に値下げすることで、入居者の心証が良くなり、立ち退き料を安く抑えることにつながります。また、無償の使用賃借契約を締結した場合、借主の権利が弱くなるのもポイントです。無償使用賃借契約に切り替える場合は、いったん通常借家契約を合意のもと解除し、新しく使用賃借契約を締結します。
5.立ち退き交渉を弁護士に依頼することがおすすめな理由
立ち退き交渉を行う際には、入居者側の事情も考慮しつつ、立ち退いてもらう理由や経緯、物件の状況などを、誠意をもって説明し、話し合いの上納得してもらうことが重要です。方法を間違えると入居者の感情が悪化してトラブルに発展するおそれもあります。スムーズに立ち退いてもらうためには、弁護士に交渉を依頼するのがおすすめです。その3つの理由について見ていきましょう。
①立ち退き料の妥当な金額がわかる
先ほどからご説明しているとおり、立ち退き料には明確な金額は決まっていません。提示する金額が少なすぎると、入居者の心証が悪くなってしまいます。逆に多く提示しすぎるとオーナーが損をすることになりかねません。立ち退き案件の豊富な弁護士に依頼すれば、きちんとしたデータや過去の判例をもとに妥当な金額を提示することができるようになります。
②オーナーにかかる負担が軽くなる
立ち退き交渉には非常に多くの労力がかかります。すんなり応じてくれる入居者ばかりとは限らず、拒否をされてしまった場合は何度も話し合わなければなりません。交渉のプロである弁護士に依頼することで、オーナーが手間をかけることなく、入居者がスムーズに立ち退きに応じてくれる可能性も高まります。
③訴訟になった場合にもスムーズに対応できる
法律の専門的な知識や交渉テクニックがないと、後から揉めたり、裁判になったときに不利になってしまったりするおそれもあります。弁護士は訴訟になった場合のことも想定し、万全の準備をして交渉に臨みますので、万が一揉めて裁判に発展した場合でも有利に進めることができます。
なお、立ち退き交渉を弁護士に相談・依頼する際に知っておいていただきたいポイントは、こちらの記事でまとめましたので、ぜひお読みください。
◆まとめ
賃貸物件のオーナーは一部のケースを除いて、貸主側都合で借主に物件を退去してもらう場合は立ち退き料を支払う必要があります。金額は個別のケースによって変わってくるため一概にはいえませんが、安く抑える方法もあります。ただし、いくら退去してもらう代償として立ち退き料を支払うからといっても、立ち退き交渉は容易ではありません。
賃貸物件の立ち退きで困っている、スムーズに退去してもらいたいということであれば、賃貸立ち退きトラブル相談窓口にご相談ください。さまざまな立ち退きトラブルや不動産トラブルを解決してきた弁護士がしっかりと交渉に臨み、円満に解決できるよう尽力します。初回相談1時間は無料です。まずはお気軽にご相談ください。
弁護士監修記事
弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI
杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応