家賃滞納者が自己破産したら、滞納家賃はどうなる?

2023年05月25日

●はじめに

借金を負っている人は自己破産を行うことで、債務の履行が免除されます。債務者にとっては人生を再スタートさせるきっかけとなりますが、一方で債権者にとっては大きな損失を被ることになります。

賃貸経営についても同様です。債務者である家賃滞納者が自己破産してしまった場合、債権者であるオーナーは滞納分の家賃回収が極めて難しくなり、その損失はオーナーが被らなければならなくなるおそれが極めて高くなります

賃借人が自己破産したらどうなるのか?オーナーはどうすべきか?をしっかりと押さえておくことが大切です。今回は家賃滞納者が自己破産した場合の対応方法や損失を防ぐポイントについて解説します。

1.家賃滞納者が自己破産した場合に、滞納家賃はどうなる?

●自己破産とは?

自己破産とは債務者が債務を履行できない状態に陥った際に、裁判所を通じて債務を取り消してもらう手続きのことです。債務の金額や借入件数、対象となる借入先などの基準は特に定められていません。

自己破産を行うことで借金や支払いから免れることができますが、税金や婚姻費用、養育費などは自己破産後も支払義務が残ります。また、自己破産を行う場合は財産を処分しなければならないため、100万円を超える現金や不動産、自動車などは手放すことになります。

●破産手続開始前の滞納家賃は支払い義務がなくなる

家賃の支払いも法律上は借金と同じく債務となります。そのため、家賃を滞納していた賃借人が自己破産すれば、それ以前の滞納家賃は、滞納期間の長さや金額の大小に関わらず、支払わなくても良いことになってしまうのです。

ただし、履行義務がなくなるのは破産手続開始時に存在していた債務のみです。手続き開始後に発生した債務に関しては、自己破産が決定した場合であっても支払う必要があります。

また、単に自己破産をしただけでは賃貸借契約を解除されることはありませんが、未払い賃料があることを理由に信頼関係がなくなったとして賃貸借契約を解除され、建物を明渡さなければならない事態となることはります。この点についても注意が必要です。

●水道光熱費も免責の対象となる

ちなみに自己破産手続を行って債務が免責されれば、上下水道やガス、電気料金などの公共料金の支払に関しても免除されることになります。水道料金に関しては上下水道使用料金が免責となりますが、下水道使用料金は行政が徴収しており税金と同じような立ち位置になるので、免責の対象外となります。

なお、自己破産手続開始が決定されて水道光熱費が免責となった場合でも、水道、電気、ガスが止められることはありません。破産法第55条1項では、自己破産申立の前に発生した滞納料金が支払われないことを理由としてライフラインの供給を止めてはいけないと定められているからです。

このように、債務者にとっては財産を失う一方で、自己破産は非常にメリットが大きい制度といえます。

2.家賃滞納者が自己破産した場合のオーナーの対処方法とは?

●未納家賃を回収することが難しい

自己破産は単に「借金を返すのが厳しいから」「支払いをしたくないから」といって認められるようなものではありません。裁判所は書類をよく審査したうえで破産開始決定を判断します。

自己破産手続きにおいては一部の債権者だけに対して優先的に弁済することを認めていません。そのため、賃貸人(オーナー)も他の債権者と同じ立場に置かれることになってしまいます。

そもそも自己破産に至るほどのケースでは、債務者が相当な債務超過状態にあり、各債権者に対して債務を履行する能力がないということになりますので、滞納家賃の全額回収は非常に困難であると言わざるを得ません

●連帯保証人への請求は可能

自己破産手続によって賃借人に対して滞納家賃支払いが免除された場合であっても、連帯保証人に対する請求は可能です。ただし、やはりこれに関しても他の債権者と条件は同じです。

自己破産手続が行われたら早い段階で連帯保証人に連絡し、代わりに支払ってもらうように督促することが重要となってきます。連帯保証人には催告や検索の抗弁権は認められていませんので、損失を被らないようにするためにはしっかりと請求することが大切です。

3.自己破産した家賃滞納者との賃貸契約を解除できるケースとは?

●債務履行により、賃貸契約を解除し立退きを求められるか?

前述のとおり、自己破産手続前の家賃については免責されますが、手続き後の家賃支払債務は発生しますので、その分は賃借人本人に請求しても問題はありません。しかし、支払い能力がないわけですから、早めに契約を解除し立退きを求めるのが得策です

賃貸借契約においては、当事者の一方に債務不履行があれば解除することは可能とされています。家賃の滞納に関しても賃料支払義務という債務の不履行にあたるため、契約解除の原因となります。しかし、「1回家賃を滞納したから」というように簡単な理由では債務不履行による契約解除はできないのが現実です。

●信頼関係の破壊が認められる場合には、賃貸契約の解除→立退き請求が認められる

賃貸借契約のような継続的な契約関係は、当事者間の強い信頼関係が前提となります。そのため、ただ単に債務不履行があったからといって即時に賃貸借契約を解除するのは難しいです。当事者間の信頼関係を破壊するような事情がない限り、契約解除はなかなか認められません。これを「信頼関係破壊の理論(法理)」といいます。

具体的には保証金の使い切り、3ヶ月以上の家賃滞納などが信頼関係の破壊とみなされ、これらの行為があった場合は賃貸借契約解除→立退き請求が認められる可能性は高くなります。また、家賃滞納の事実だけでなく滞納理由や滞納以前の支払状況、オーナーによる催告の方法や頻度、それに対する賃借人の対応や支払い意思の有無など、さまざまな要素にもとづき総合的に判断されます。

くれぐれも「自己破産したから出ていってほしい」ということはできないため注意が必要です。

まとめ

家賃滞納者が自己破産をした場合、オーナーが未納家賃を回収するのは極めて困難となります。破産手続開始以降にできる手立てといえば、連帯保証人に請求をする、賃貸借契約を解除→立退き請求を行って今以上の損失を防ぐぐらいしかありません。大切なのは自己破産に陥る前に対策をとっておくことです。家賃滞納は大きなトラブルに発展しがちで、効果的な督促を行って滞納分を回収するためには法律的な知識も必要となります。そこで、専門家である弁護士に相談することで、早期に解決が図れます

賃貸立ち退きトラブル相談窓口なら、立退きや家賃回収の経験豊富な弁護士が在籍しているので、スピーディーかつスムーズな解決につながります。ご依頼者様に寄り添い、話しやすさにも定評があります。初回相談は1時間無料です。

大家さん、オーナーさん、賃貸管理会社の担当者様で立退きトラブルや家賃滞納でお困りでしたら一度ご相談ください。

弁護士監修記事

弁護士 菊地 智史

弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI

杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応

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