2023年07月26日
はじめに
家賃滞納や迷惑行為をするなど問題がある入居者を放置しておくと大家さんが大きな損失を被ったり他の入居者が迷惑を被ったりするおそれがあるため、早めに対処することが大切です。しかし、退去を要求しても応じないケースも少なくありません。その場合は強制退去も視野に入ってきます。
この記事では立ち退き問題を専門としているプロの弁護士が、強制退去させられる条件やかかる費用について解説します。
目次
1.入居者を強制退去させるには
強制退去は法律に従った手順が必要
賃貸物件の入居者は借地借家法で権利が保護されているため、無闇矢鱈に退去させることはできません。ただし、入居者に著しい問題がある場合、大家さんや他の入居者が迷惑を被っている場合は賃貸借契約を解除することができます。
この場合でも、まずは話し合いを行い、法律に則った手順で退去させなければなりません。実力行使に出ると、むしろ大家さん側が刑事上の罪に問われるおそれがあります。
強制退去させる条件は主に3つ
賃貸借契約を解除するためには大家さんと入居者との信頼関係が破壊されていると認められる必要があります。契約は両者の信頼によって成り立つものなので、信頼関係が破壊された状態で契約を継続させることはできません。その条件として主に以下の3つが挙げられます。
3か月以上の家賃滞納
まず信頼関係が破壊されているとみなされる事象として挙げられるのが家賃の滞納です。とはいえ、支払いを忘れていた、一時的に困窮していたなど、入居者に何らかの事情があって家賃を支払えなかったということもあるかもしれません。概ね3ヶ月以上家賃滞納が続いた場合に、はじめて強制退去の対象になり得ます。
入居者に明らかに支払いの意思がない
入居者に家賃を支払う意思があるかどうかも重要な要素です。支払通知に対する対応や話し合いの際の受け答えなどで意思があるかどうかがわかります。たとえば支払通知を何度も出したにも関わらず無視をする、ある程度お金を持っており生活に不自由していない様子であるにもかかわらず「払わない」と言われたようなケースであれば、支払う意思がないとみなすことができます。
そのほか、悪質性の高い契約違反があること
賃貸借契約の違反行為も強制退去の対象になり得ます。たとえばペット禁止の物件で動物を飼育する、住居用の物件を店舗や事務所などの事業として使う、第三者に無断で又貸しをする行為などが挙げられます。また、騒音や悪臭を発生させる、ゴミを放置するなど、他の入居者に迷惑がかかる問題行為を行った場合も、信頼関係の破壊があったとみなされ、強制退去をさせられる可能性があります。
2.こんな時どうする?強制退去の現実
弁護士事務所に寄せられる質問にはこんなものが!
Q1.所有しているマンションに半年以上から家賃の滞納を繰り返している入居者がいる。何度も催促をしているが支払う様子がないので強制退去を求めたい。初めてのことなので自分ではわからないため、弁護士さんにお願いしたい。最終的に退去してもらえたら、弁護士さんの費用は入居者に請求できるか。
結論からいうとできません。弁護士に立ち退きの交渉や法的措置を依頼すると報酬が発生します。元はと言えば入居者が信頼関係を破壊する行為を行っているので、弁護士費用も入居者に負担させたいというのは心情としてよく理解できます。
退去にかかる費用は入居者に請求することができますが、残念ながらその中に弁護士費用は含まれていないのです。そのため、間に入って交渉してもらう場合、法的措置を取る場合、自己負担で弁護士に依頼する必要があります。退去にかかる費用の、負担に関するルールについては次の章で詳しくご説明します。
弁護士費用はかかりますが、強制退去の交渉や法的手続きは膨大な手間と時間がかかり、精神的な負担にもなります。問題が長引くことによって本来得られるべき家賃が得られない期間が長引けば、あるいは他の入居者が退去してしまった場合、大きな損失につながりかねません。それを考えると、出費はかかっても弁護士に相談したほうがいいケースもあります。
3.強制退去にかかった費用は誰が払うもの?
強制執行にかかった費用については法律で決められている
強制執行にかかった費用に関しては基本的に債務者つまり入居者の負担となります。これは民事執行法第42条にも記載されています。
強制退去にかかった費用は、具体的には回収費用や訴訟手続きで必要となった費用などを指します。ただし、前述のとおり弁護士費用はその中には含まれていません。また、強制執行にかかる費用は一旦大家さんが立て替えて、手続きの後に入居者へ請求することになりますので、ある程度現金を手元に用意しておく必要があります。
強制退去、その実態とは
以上のように、強制執行にかかった費用は入居者に請求することができますが、そもそも家賃を滞納してしまうような入居者は支払い能力が乏しいケースがほとんどで、回収するのは極めて難しいのが実情です。実際に大家さんが自己負担をしてマイナスになってしまう可能性が高いため、それを覚悟して計画を立てる必要があります。
ただ、それでも問題がある入居者を強制退去させることで、これ以上の損失が膨らむのを食い止めることができます。後々のことを考えると費用を自分で負担してでも強制退去に踏み切ったほうがいい場合もあります。
自己破産した入居者の場合はさらに注意が必要
入居者が自己破産をしてしまうとさらに厄介です。破産申立を行ってそれが認められると滞納している家賃の支払いは免責、つまり支払わなくてもいいということになってしまいます。そのため滞納分の家賃回収は極めて困難な状況になってしまうのです。
なお、対象となるのは自己破産をする前の家賃のみであり、自己破産後に発生した家賃に関しては免責にはなりません。自己破産をされて家賃回収が不可能な状態になるのを防ぐためにも、強制退去をさせると決めたのであればなるべく早くから動きだす必要があります。
4.強制退去にかかる費用を時系列で見てみよう!
最低でも数十万円の出費は覚悟しておこう
以上のように、強制退去の執行までにはさまざまな手順があり、その都度手続きや作業などで費用が必要となります。ワンルームマンションであってもトータルで数十万円~60万円ほどはかかると見込んでおきましょう。これに滞納分の家賃を加えたらかなりの損失になるのは間違いありません。
入居者が置いていった荷物の行方は?
強制執行が行われるその瞬間まで入居者が部屋で生活していた場合、家財道具や生活用品はそのままになっているケースがほとんどです。これらの荷物は勝手に処分することができないため、強制執行時に搬出され、執行官が指定する倉庫に一定期間保管されます。保管期間内であれば本人や親族が引き取ることができますが、引き取られなかった場合は売却され、それで得られた利益が執行費用に充てられることもあります。
5.強制退去はプロの力を借りよう!
入居者と話し合って滞納分の家賃の支払いや退去を要請する任意交渉はまだしも、訴訟に持ち込むには専門知識が必要不可欠です。また、任意交渉は非常に時間と労力がかかり、法律の知識がないと不利に進んでしまうこともあり得ます。
家賃滞納でお困りの方、強制退去を検討されている方は、一人で抱え込まずプロに相談してみることで、解決の糸口が見える可能性があります。
強制執行までの流れについては以下の記事でも詳しくご説明していますので、ぜひお読みください。
◆まとめ
家賃滞納が3ヶ月以上続いた場合や支払いの意思がない場合、悪質な契約違反や迷惑行為があった場合、大家さんは入居者に強制退去をさせることができます。強制退去にかかる費用は入居者に請求できますが、それに弁護士費用は含まれません。また、そもそも家賃滞納をするような入居者は支払い能力がなく、結局退去費用を請求できないケースも多いです。
だからといって問題のある入居者を放置しておくと余計に損失がかさんでしまいます。これ以上損をしないためにも、早めに行動を起こし、入居者と揉めた場合や法的措置を検討されている場合は、一人で抱え込まずプロである弁護士に相談してみましょう。
賃貸立ち退き
トラブル相談窓口
家賃滞納・家賃回収・立ち退き問題
弁護士監修記事
弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI
杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応