家賃を滞納された際に大家ができる3つの督促方法

2023年06月01日

家賃を滞納された際に大家ができる3つの督促方法

家賃を滞納されたときの督促をどうするか?大家さんにとっては頭が痛い問題の一つです。心情的には直ちに退去してもらいたくても、冷静に行動することが重要です。

強制退去などの法的措置を取る前に、まずは督促を行いましょう。なぜなら、法的措置を取る際には、督促を行ったという事実が証拠として必要になる場合もあるからです。

この記事では、家賃を滞納された際に大家ができる3つの督促方法について解説します。

1.口頭・書面での連絡

家賃滞納の督促方法の1つ目は、口頭または書面で行う方法です。まず電話で連絡を取ってみて、それに相手が応答しない場合は書面を作成し、ポストに入れておきます

督促の際には感情的にならず、関係が崩れないような対応を心がけましょう。特に滞納が発生してからまだ日が浅い場合には、入居者がうっかり忘れていただけのケースも多いため、理解を示すことが重要です。

督促の連絡や督促状を送る時期の目安は、滞納が発生してから1週間程度です。また、2回目の督促は1ヶ月以内に行うと良いでしょう。これにより、滞納の長期化を防止することができます。

督促の間隔を適切に保つことで、家賃滞納の解決に向けた効果的な手続きが進められます。

2.内容証明郵便で契約解除予告通知書を送る

家賃滞納者への督促として、内容証明郵便による契約解除予告通知書を送る方法もあります。内容証明郵便とは、郵便局を通じて送付される郵便物で、送信日時や受取人の記録が残るようになっています。

内容証明郵便を使用することにより、送信日時や受取人の証明ができるので、法的措置を取った場合の証拠になります。内容証明郵便を使う時期の目安は、滞納から1ヶ月目に督促をしても効果がなかった場合で、滞納から2ヶ月以上経過した頃です

内容証明郵便を使って督促状や契約解除予告通知書を送付することで、公的な書類が届くことになり、滞納者に事の重大さを認識させる効果も期待できます。したがって、書面や電話による督促に効果が見られない場合には、必ず内容証明郵便を使用して契約解除予告通知書を送付しましょう。

3.連帯保証人・保証会社に連絡する

家賃滞納者への督促方法の1つとして、連帯保証人や保証会社に連絡する方法もあります。まず、家賃保証会社を利用している場合は、1日でも滞納が発生すれば家賃の肩代わりを依頼できるので、すぐに連絡を入れましょう。ただし、具体的に保証が受けられるまでの日数は契約の内容により異なるため、あらかじめ自身の契約内容を確認しておいて下さい。

連帯保証人が存在する場合は、滞納発生後すぐに連絡するのは避けた方が無難です。先述のとおり、まず督促状を本人に送付し、それでも対応してもらえない場合は、内容証明郵便を使用して契約解除予告通知書を送付します。これらの手続きを経ても効果がない場合には、連帯保証人に直接連絡して支払いを促しましょう

保証会社を利用しておらず連帯保証人もいない場合や、連絡が取れないか支払いを拒否している場合は、督促の範疇を超え、立ち退きを求めるなどの対策を検討する段階です。支払い督促や調停、裁判などの法的措置への移行を検討しましょう。

【知らないと危険】不法行為とみなされうる督促方法とは

家賃滞納の督促方法は、裁判所が「不法行為」だと判断すれば、損害賠償を請求されてしまう可能性があります。
家賃の督促の方法として「ここまではやっていいよ」「ここからはやっていけないよ」と直接決められた法律は存在しません。そこで、家賃の督促は債権の取り立てという側面を持つため、貸金業法に規定された債権取り立て方法の禁止行為を一つの目安として参考にすることが得策です。
「貸金業法で定められた禁止行為以外の督促方法であれば絶対に不法行為とみなされない」というわけではないことに注意が必要ですが、「このような督促方法をやってみていいだろうか」ということを検討する際の一つの目安として、非常に参考になります。

以下では、

家賃滞納者への督促は法的な側面を持つため、関連・隣接する法律や規則を意識し、不法行為と評価されない適切な方法で行いましょう。以下で、貸金業法で禁止されている督促方法を解説します。

社会通念上不適当な時間帯に連絡や訪問を行う(21:00~8:00)

督促を行う際には、実施する時間帯に注意しましょう。貸金業法第21条では、「社会通念に照らし不適当と認められる時間帯として内閣府令で定める時間帯」は督促を行ってはいけない旨が定められており、その時間帯は21:00~8:00とされています。

滞納者に対しての印象だけではなく、他の入居者への配慮という意味でも、この時間帯は避けたほうが無難です。この連絡の時間帯の規制には、訪問だけではなく、電話やFAXなどあらゆる手段が含まれるため、いずれの方法を用いて督促を行う際にも注意しなければなりません。「滞納者が深夜にしか家にいない様子だ……」というような場合であれば話はべるかもしれませんが、基本的には常識的な時間に督促を行うようにしましょう。

家賃滞納の事実を本人以外に公開する

家賃を滞納している事実を、入居者以外の人の目に触れるような形で公開することも避けましょう。貸金業法では、家賃滞納者の情報の取り扱いについて、以下のように定められています。

貼り紙、立看板その他何らの方法をもつてするを問わず、債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること

引用元:貸金業法第21条第1項第5号

具体的には、居室のドアに「家賃を払え」というような張り紙をしたり看板を立てたりして、家賃を滞納していることを知らせるなどの方法で督促するケースです。つまり、第三者から見て入居者が家賃を滞納していることが分かるおそれがある、あらゆる手段が不法行為とみなされる可能性を持ちます。

物件に入室できなくする・物件内の物を処分する

家賃滞納の督促を目的として、入居者を物件に入室できなくしたり、物件内の物を勝手に処分したりしてはいけません。なぜなら、民法には「自力救済の禁止の原則」という規定があるからです。

「自力救済」とは、法的な手続きを経ず実力行使して目的を達成しようとする行為を指します。カギを交換するなどして入室できなくすることは違法です。また、物件内の物を勝手に処分する行為は、住居侵入や器物損壊などの罪に問われる事になります。

連帯保証人以外に連絡・訪問を行う

貸金業法第21条は、連帯保証人を除く第三者に連絡を取ったり、訪問したりすることは禁止しています。これには滞納者本人の勤務先も含まれるので、勤務先へ督促に行くなどの行為も最大限回避するべきです。貸金業法では、この件に関して以下のように規定されています。

正当な理由がないのに、債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所を訪問すること。

引用元:貸金業法第21条第1項第3号

ここで言う「正当な理由」となるのは、滞納者本人から自発的に同意を得た場合と、滞納者や連帯保証人に連絡する方法が無く、かつ滞納者本人や連帯保証人の連絡先を確認するために連絡が必要な場合です。オーナー側から「連帯保証人以外と連絡を取ってもよいか」と確認をすることも禁止されています。

正当な理由に該当する場合でも、連絡を拒否されたり訪問して退去を促されたりした場合は素直に応じなければ違法となるので注意しましょう。

第三者に弁済を要求する事

家賃滞納に対する督促として、第三者に弁済を要求することもなるべく避けてください。貸金業法では、この件に関して以下のように定められています。

債務者等以外の者に対し、債務者等に代わって債務を弁済することを要求すること。

引用元:貸金業法第21条第1項第7号

第三者に弁済を要求して、要求に応じてもらえたとしても、後々その第三者と賃借人との間のトラブルに巻き込まれる可能性があります。
そのようなリスクを敢えて取るよりは、賃借人に対する建物明渡請求といった費用は掛かってもリスクの少ない王道の手段で対応することが望ましいです。

弁護士・司法書士以外の第三者に督促を依頼する

弁護士・司法書士以外の第三者を代理人として、督促や家賃の回収を行わせてはいけません。督促や家賃の回収の代理は、弁護士法72条が定める「法律事務」に該当します。法律事務は弁護士と司法書士しか行えないので、それ以外の第三者に督促を依頼することは違法となるのです。とりわけ反社会的勢力に督促を依頼すると大きな問題に発展するおそれもあります。

なお、司法書士は法律に関する助言などの業務に関して大幅な制限がかけられているため、督促を含む家賃滞納のトラブルは弁護士への相談をおすすめします

円滑に家賃の回収or退去を行う流れを解説

家賃滞納者に督促をするには、トラブルを防ぐ適切な方法があります。督促だけではなく、退去を依頼する際にもルールがあるため、円滑に進めるためには手順に沿った対応が必要です。

ここでは、円滑に家賃の回収や退去を行う流れを解説します。

1.督促状を送る

まず始めに行うべきことは、家賃滞納者へ督促状を送り家賃の回収を目指すことです。電話による連絡でも問題ありませんが、書面が双方の手元に残る督促状の方がおすすめです。なぜなら、督促を実施したという証拠が残るため、後々訴訟になった際には有力な証拠となるからです。

督促状を送ったのに家賃を支払ってもらえなくても、次のステップに進むために必要な行程なので、感情的にならずに冷静に行動しましょう。

2.支払督促・調停を行う(家賃を払ってもらったうえで住み続けてほしい場合)

支払督促とは、最も簡易的にできる法的督促方法で、オーナーの申立てにより裁判所が入居者に支払いを命じてくれる制度です。入居者から異議がなければ、裁判所からの仮執行宣言付支払督促によって1ヶ月半程で終了します。

調停とは、裁判官と調停委員会の仲介のもと、当事者同士が話し合う制度です。当事者間で合意すれば調停成立となりますが、合意できない場合は調停不成立となり、請求を継続する場合は訴訟に移行します。

家賃を払ってもらったうえで、今後も住み続けてほしいと思っているケースでは、これらの方法が使えます。逆に、もう退去してほしいと思っている場合は、次で解説する内容証明郵便を送りましょう。

3.内容証明郵便を送る

滞納している家賃の回収が難しいと判断し、入居者に退去を求めたい場合は、内容証明郵便を送る方法があります。裁判所を通じた督促状による督促でも効果が無ければ、内容証明郵便によって契約解除予告通知書を送付し、退去を求める意思表示をしましょう。

退去を求める場合は明け渡し訴訟に進むことになるので、内容証明郵便を送った事実は、裁判になった際の重要な証拠となります。裁判を有利に進めるために、必ず送るようにしましょう。

4.確約書を取り交わす(支払が行われた場合)

督促によって、滞納していた家賃がすぐに支払われたら、必ず確約書を取り交わしましょう。なぜなら、入居者に滞納を繰り返されて、オーナーが不利になることを防ぐためです。

確約書とは、今後滞納をしない旨や、滞納があった場合に即、賃貸契約を解除するといった旨を定めた書類です。確約書を取り交わしておけば、今後滞納があった際に退去を求めるための有力な証拠となり、オーナーが交渉や訴訟を有利に進められるので非常に重要となります

5.賃貸借契約の解約(自主的に退去する場合)

入居者が契約解除の予告通知書を受け取って、家賃を支払えないため入居者から自主的に退去することを申し出てきた場合は、賃貸契約の解除を行います。この際に、入居者が使用していた残置物がある場合は注意が必要です。必ず残置物放棄書を取り交わし、所有権を放棄させましょう。処分方法をオーナーに一任させるとともに、費用負担に対して異議を唱えないことを約束させるのは、退去後のトラブル防止の観点で重要となります。

また、滞納している家賃についても、なるべく回収を試みることをおすすめします。一括で支払えない場合には、分割払いなどを提案してみましょう。滞納している家賃に関する取り決めは、分割払い確約書などの書面を取り交わすことで行います。

6.法的措置を取る【最終手段】

内容証明郵便による督促状を送っても反応が無いなど、支払いの意思を見せず、立ち退きも拒否している場合は、滞納している家賃の回収は難しいと判断すべきです。最終手段として、入居者に立ち退きを求める法的措置を取りましょう。

裁判を起こすことになりますが、ここまでの順序を踏まえていれば、入居者に対して十分に配慮したとみなされ、有利に進めることができます。まず明け渡し訴訟から行われ、次に強制退去執行の順番で行われます。

家賃滞納に対する法的措置については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

【注意】家賃を滞納したまま勝手に退去された場合の対処法

家賃を滞納したまま入居者に勝手に退去されてしまったら、オーナーにとって難しい状況になります。家賃保証会社に加入している場合は、直ちに保証会社へ連絡しましょう。 滞納している家賃の保証や、原状回復費用、さらには訴訟費用が保証されることもあります。

保証会社に加入していない場合は、連帯保証人に連絡し、家賃の請求や契約解除の手続きを行って退去してもらいましょう。連帯保証人がいない場合や協力的でない場合は、訴訟による明け渡し請求を経て、強制退去執行によって明け渡しを行います。

家賃を滞納したまま勝手に退去する行為は、夜逃げと同じです。入居者に夜逃げされた場合の対処方法については、以下の記事で詳細に解説していますので、参考にして下さい。

滞納された家賃の回収は弁護士を使うのが効果的!メリットとデメリットを紹介

滞納された家賃の回収は適切な手順があるほか、法律が絡む手続きも多いため、弁護士に依頼したほうが楽で迅速な解決が見込めます

ここでは、滞納された家賃の回収を弁護士に依頼するメリットとデメリットを紹介します。

【メリット1】迅速な交渉により早期解決と被害金額の低減が見込める

滞納された家賃の回収を弁護士に依頼すると、被害金額の低減が見込めるというメリットがあります。なぜなら、家賃滞納は長引けば長引くほど損害額が大きくなるからです。

損害を最小限に抑えるためには、早急な解決が大切で、この手の事案に慣れている弁護士に依頼すれば、スピーディーな家賃の回収が期待できます。また、必要に応じて退去の手続きを代行してもらうこともできるので、解決が早くなり、被害額を低く抑える効果も見込めるのです。

【デメリット】コストがかかる

弁護士に依頼する場合は、当然ながらコストがかかるため、強いて言うならこれがデメリットと言えるでしょう。しかし、家賃の滞納が長引いて入居者に長く居座られる方が、オーナーの損害が大きくなることが一般的です。また、自力で解決を試みたときに、退去の話がこじれて訴訟になった場合は、法律の専門家以外が対応することは難しくなります。

ゆえに、コストを負担してでも弁護士に依頼するほうが、結果的には得をする場合が多いのです

弁護士監修記事

弁護士 菊地 智史

弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI

杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応

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