家賃滞納者の夜逃げは民事扱い!罪には問えないので適切な対応が必須!

2023年06月01日

家賃滞納者の夜逃げは民事扱い!罪には問えないので適切な対応が必須!

家賃を滞納されたあげく夜逃げされてしまったら、オーナーとして腹立たしいのは当然のことだと思います。しかし家賃滞納者が夜逃げしても、その行為は刑事事件として扱われず、罪に問われることはありません。なぜなら、夜逃げとそれに伴う家賃滞納は民事事件扱いになるからです。

オーナーは明渡し手続きを行う必要がありますが、これは民事訴訟などを駆使して行わなければなりません。家賃を踏み倒された立場であっても、感情的な行動は慎むべきです。

例えば、契約書に「合鍵使用可」という条項があっても、法律上は自力救済が禁止されているため、この条項は無効になります。もし実行すれば、オーナーが住宅侵入罪で起訴されたり、慰謝料を請求されるおそれがあります。したがって、家賃滞納者にスムーズに退去してもらうためには、法律に則った手続きが必要です。

この記事では、家賃滞納者が夜逃げした場合の手続きの流れや、夜逃げを疑うべきポイントと確認方法、家賃回収方法などを解説します。

家賃滞納者が夜逃げした時の対処法と手続きの流れ

家賃滞納者が夜逃げした場合、適切な手順を踏まないと法令に違反する可能性があります。滞納された家賃を回収するどころか、逆にオーナーが訴訟を起こされるリスクも存在するのです。また、夜逃げした滞納者への適切な対処は、次の入居者の募集をスムーズにすることにもつながります。決して感情的に行動せずに、冷静な対応を取るほうが自身にとっても好都合です。

賃借人は借地借家法で守られているので、法律を遵守して対処し、無用なトラブルを回避しましょう。この項目では、夜逃げが発生した際に円滑な解決を図り、次の入居者を迎えるための準備となる適切な対処法を解説します。

1.連帯保証人に連絡する【必ず最初に行う】

賃借人の夜逃げが発覚したら、まずは連帯保証人に連絡しましょう。契約書の文言によっては連帯保証人による賃貸契約の解除が可能な場合もあり、また連帯保証人に対しては賃借人に代わって未納家賃を支払うように請求することが法律上認められています

たとえ滞納された家賃を直ちに回収できなかったとしても、その後の手続きを円滑に進めるためにも、必ず最初に連帯保証人に連絡することが重要です。

2.賃貸契約と建物明渡請求【※残置物はまだ撤去できない】

契約書の文言上、連帯保証人に対する意思表示によって賃貸借契約を解除できる場合があることはすでに述べました。では、契約解除後の物件の明渡し請求も連帯保証人に対して行えるのでしょうか。

結論からいうと、連帯保証人に対する建物明け渡し請求はできません。「建物から立ち去って物件を明渡す」という物理的ななアクションは、実際に建物に住んでいる人=賃借人本人でないとできないことです。
具体的に考えてみましょう。○○マンション×号室に住んでいるAさんは、×号室から出ていくことはできますよね。でも実際に○○マンション×号室に住んでいない連帯保証人のBさんが、×号室から出ていくのは不可能です。

したがって、この場合は賃貸借契約の当事者間の信頼関係が破壊され賃貸借契約が解除されたとして、賃借人に対し建物明渡し請求訴訟を提起することになります。
「夜逃げして行方の分からない人に対して訴訟を起こせるの?」というご疑問もおありでしょう。その場合は公示送達といって、直接被告本人に連絡がつかない場合の訴訟のやり方を使うことになります。

 

3.残置物撤去の強制執行を申し立てる

連帯保証人と連絡が取れない場合、建物明渡訴訟によって賃貸契約の解除が完了したら、残置物を撤去するための「強制執行」という手続きを行います。強制執行は、オーナーが費用を負担しなければならないことに注意しましょう。

【強制執行の手続きの流れ】

1.強制執行を申し立てる

強制執行を実施するためには、申し立ての手続きを行わなければなりません。申し立ては、賃貸物件の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して行います

2.強制執行の予納金を支払う

強制執行を実施する場合は所定の費用が必要で、強制執行を実施する前に支払わなければなりません。予納金の支払いは、裁判所に対して行います。

3.執行補助者を決める

強制執行を実施する際には、残置物を運び出してもらう業者を探し、決めておかなければなりません。自力で見つけられない場合は、執行官から紹介を受けたり、依頼している弁護士に相談することで紹介してもらえる場合もあります。

4.「明渡しの催告」を行う日にちを決める

執行官と打ち合わせを行い、「明渡しの催告」を行う日にちを決めます。明渡しの催告とは、強制執行の前に入居者の部屋に入り、物件の占有状況を確認したり、明渡しの期限・強制執行の実施日時を公示書に記載して室内に掲示する手続きです。

明渡しの期限は、明渡しの催告を行ってから1ヶ月で、強制執行は明渡しの期限日の数日前に行います。また、執行補助者を決めて執行官に伝えておきます。

5.「明渡しの催告」を実施する

入居者の部屋に入り、明渡しの催告を実施します。

6.強制執行を実施する

断行日(強制執行を行う日)になったら、執行補助者とともに残置物を撤去し、強制執行を実施します

7.強制執行完了

残置物を撤去したら、強制執行が完了です。

4.原状回復を行う

強制執行が完了した後には、次の入居者のために部屋を原状回復させることができるので、必要な工事を実施します。入居時の契約で原状回復費用は入居者が負担することになっていても、強制執行を行うとオーナーが費用を負担しなければなりません

夜逃げを疑うべき家賃滞納者の行動・状況とは

家賃滞納者がいる場合、オーナーは入室して状況を確認したいところでしょうが、勝手に入室することは違法行為となるおそれがあります。部屋に入ることなく実際に夜逃げしたかどうかを確信することは難しいですが、入室しなくても夜逃げを疑うべき状況はいくつか存在します。

この項目では、家賃滞納者が夜逃げしたことを疑うべき行動・状況について解説します。

1.連絡がつかない

家賃滞納者の現在の状況を確認したい場合でも、いきなり合鍵で入室などはしないで、まずは冷静に電話やメールなどで連絡を取ってみましょう。

ただし、連絡がつかないことだけで夜逃げしたとは断定できません。家賃滞納者が話し合いに応じたくなくて連絡を無視していたり、居留守を使っているだけの可能性もあるからです。

連絡がつかない場合は、後述するような他のいくつかの兆候がないかも観察しながら、注意深く様子を見続けましょう。

2.電気やガスなどのメーターが動いていない

家賃滞納者が家におらず電気やガス、水道を使っていない場合、メーターが止まるため、それらが動いていないかどうかを確認することは、夜逃げを疑う有効な手がかりとなります。特に、真夏に冷蔵庫を使用していない、真冬に給湯用のガスを使用していないといったことは一般的には考えられません。

数日間観察していても電気やガスのメーターが全く動いていない場合は、長期間部屋を空けている可能性が高いので、夜逃げを疑う材料となります。

3.郵便物が溜まっている

入居していれば定期的に郵便物を確認するはずです。郵便受けに郵便物が大量に溜まっている場合、家賃滞納者が長期間部屋を空けている可能性を示す有力な材料となります。

ただし、家賃の他にも支払いを滞納している場合は、請求書を受け取らないためにわざと取り出していない可能性もあるため、これだけで夜逃げしたと断定することはできません。郵便物が溜まっているうえに家賃滞納者と連絡がつかないようなケースは、夜逃げしている可能性も考えるべきでしょう

4.長期間に渡って人の出入りが無い

長期間にわたって人の出入りがないことも、夜逃げの可能性を疑う有力な材料となります。ただし、元々他人との交流がほとんどない入居者ならば、普段から誰も会いに来ない可能性も考えられます。また、生活スタイルが夜型の入居者の場合は、オーナーが確認しない時間帯に出入りしている可能性も考えられるので、これだけで夜逃げしたと断定することはできません。

他の兆候があるかどうかを確認するとともに、注意深く状況を観察する必要があります

【要注意】本当に夜逃げしたか確認・確定させる適切な方法

家賃滞納者が、夜逃げした可能性が高いことをつかんだとしても、安易な行動は慎みましょう。たとえ連絡に応じないとしても、入居者の部屋に勝手に入ってしまうと、住居侵入などの罪に問われる可能性が高いからです。さらに、入居者から慰謝料を請求されてしまう恐れもあります。

法律では司法手続きを経ずに行う「自力救済」は禁止されています。本当に夜逃げしたかどうかを部屋に入って確認するためには、法律に則った適切な手順を踏む必要があります

この項目では、法律を破ることなく入居者の部屋に入り、夜逃げしたかどうか確認する方法を解説します。

1.連帯保証人と警察に連絡・相談して部屋に入る

夜逃げしたかどうかの確認を行う際には、連帯保証人と警察官に立ち会ってもらった上で部屋に入る必要があります。まず始めに連帯保証人に連絡し、家賃を滞納していて連絡もつかない等の事情を説明して、連帯保証人から入居者に連絡を取ってもらうように依頼しましょう。

それでも連絡がつかなければ、入居者が夜逃げしたかどうかの確認をしたい旨を連帯保証人に伝え、立ち会いを依頼します。同時に警察にも連絡し、入居者が夜逃げした可能性があるので確認をしたい旨を伝えましょう。

このように、警察と連帯保証人の両者に立ち会ってもらったうえで、部屋に入るよう手配します。この手順を踏んで夜逃げが確定したら、部屋の明渡しや残置物の撤去、滞納された家賃の回収に移ることができます。

2.警察に安否確認を依頼して部屋に入る

連帯保証人と連絡がつかない場合や、立ち合いの協力が得られない場合には、事件性があるとして警察に安否確認として来てもらい、警察官の立ち会いのもとで部屋に入る方法があります。

この方法で重要なことは、入居者の心情に配慮することです。警察よりも先に、前項のようにまず連帯保証人に連絡し、入居者との連絡や部屋に入る立ち会いの協力を依頼する手順を取りましょう。たとえ連帯保証人に協力してもらえないとしても、この手順を取ったうえで警察の立ち合いを受けることが重要で、安否確認は最終手段とするべきです。

警察の協力を得ることで法的手続きを適切に行い、夜逃げの有無を確定させることができます。

家賃滞納で夜逃げされた場合に家賃の回収は可能?

夜逃げされた場合に家賃が回収できるかどうかは、入居者が結んだ契約内容や、連帯保証人が協力的かどうかなど、そのときの状況によります。まず、入居者が入居時に家賃保証会社と契約している場合は、オーナーから保証会社に対して家賃滞納分を請求できます。ただし、一部の条件に該当する場合は保証対象外というケースがあり、夜逃げが該当する場合もあるので、改めて契約内容の確認が必要です。

保証会社に加入していない場合は、連帯保証人に請求し交渉することになります。連帯保証人が支払いに応じた場合は、そのまま支払ってもらえばよいでしょう。しかし、連帯保証人が支払いに応じない場合は、訴訟を起こすことになります。仮に夜逃げした入居者が見つかれば、本人に請求を出したり、本人に対して訴訟を起こすこともできます。

訴訟に踏み切る場合は、回収可能性と必要なコストを計算して、訴訟が割に合うかどうかをあらかじめ知っておくべきです。なぜなら、訴訟には弁護士費用などさまざまなコストが発生することに加え、家賃滞納者に弁済能力がなく全額回収できないこともあるからです。特に重要なボーダーラインとなるのは60万円です。これを超えるか超えないかで訴訟の方法も変わってきます。

以下で、家賃滞納額が60万円未満の場合と、60万円を超える場合に分けて解説します。

【少額訴訟】滞納額60万円以下の際の回収方法

滞納された家賃を含む60万円以下の請求額の民事訴訟は、簡易裁判所で起こせる「少額訴訟」という特殊な訴訟制度を使って起こすことができます。

少額訴訟は1回の審理で結審する簡易的な裁判であり、オーナーの負担として軽く済むことがメリットですが、敗訴した場合に控訴して別の裁判官の判断を仰ぐことができない(同じ裁判官が再度判決の判断する「異議申立て」を一回できるのみ)というデメリットもあります。

少額訴訟は本人が起こすこともできますが、書類の作成なども必要なので、弁護士に依頼するのがおすすめです。

【通常の民事訴訟】滞納額60万円超の際の回収方法

家賃滞納額が60万円を超える場合の訴訟は、通常の訴訟を起こす必要があります。少額訴訟制度と比べると、かかる時間や労力が非常に大きいため、少額訴訟以上に割に合うかを事前によく検討する必要があります。

通常訴訟は多くの書類を準備したり、何度も審理を行うなど、とにかく手間がかかるので、弁護士に依頼されるのがおすすめです。

【まとめ】明渡しは時間がかかるが手順に沿った対応が必須

夜逃げされた後の物件の明渡しは、契約解除や強制執行など法律で規定された手続きが必要で、時間も手間もかかるものです。オーナーにとっては精神的にも肉体的にも負担がかかることでしょう。しかし、法律で「自力救済の禁止」という規定があるように、実力行使は絶対にしてはいけません。感情に任せて自分で入居者の部屋に入るなどの対応を取ってしまうと、逆に賃借人が罪に問われるリスクがあるため、面倒でも適切な手順に沿った対応が必須です。

また、明渡しの手続きは多数の法律に絡む難しい手続きが発生するため、弁護士に依頼して進めるのが安心で確実です。当事務所では、宅建士の資格も持ち不動産関連の経験が豊富な弁護士が「家賃滞納・家賃回収・立ち退き問題」への対応に当たっています。オーナーさまの負担を軽減し、次の入居者を迎える準備もスムーズに進めることができます。

当事務所では初回1時間の無料相談を行っていますので、お困りごとがあればお気軽にご相談ください。

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弁護士監修記事

弁護士 菊地 智史

弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI

杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応

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