2024年03月27日
土地を所有しているのであれば、それを相続することは可能です。しかし、注意したいのは借地権です。たとえば人から土地を借りて家を建てた場合、建物はその人の所有になりますが、敷地に関しては借地権が発生しているということになります。この場合は相続が可能なのでしょうか?
今回は借地権に関するトラブルでお困りの方、あるいは借地権を相続予定の方のために、よくありがちな借地権の相続に関するトラブルの事例と対処法について弁護士が解説します。
目次
借地権は相続の対象になる?
結論からいうと借地権は相続することが可能です。そもそも、借地権とは土地を借りる権利のことを指します。前述のとおり人から土地を借りてそこに家を建てた場合、土地に関しては所有権ではなく借地権が発生していることになります。
なお、土地を借りている人は借地権者、貸している人(地主)は借地権設定者や底地人といいます。借地権者は借地権設定者に対して地代を支払う代わりに土地を活用することができるのです。
借地権の相続には地主の許可は不要
借地権者が借地権を相続する場合、借地権設定者に対して許可を取ったり借地契約を更新したりする必要はありません。借地権設定者の同意がなくとも借地権を引き継ぎ家に住んだり土地を利用したりしていくことは可能です。ただし、今後も地代を支払っていく必要はあり、地主さんとの関係も続いていきます。良好な関係を保つためにも、トラブルを防ぐ意味でも、相続する・したことを地主さんに報告されることをおすすめします。
相続した借地権の売却を行うには地主の許可が必要
借地権を相続する場合、借地権設定者の許可は不要ですが、借地権を売却する際には承諾が必須です。人から借りたものを自分のもののように売ってしまうのは道理が通りません。無断で売却する場合は借地契約を取り消されてしまう可能性があります。なお、地主さんの承諾が得られれば売却は可能となりますが、その代わりに地主さんに承諾料として借地権価格の10%程度を支払うのが一般的です。
遺贈の場合は地主からの承諾が必須
親族などの法定相続人以外の第三者に借地権を遺贈する場合は、やはり借地権設定者の承諾が必要となります。
借地権を遺贈するためにはあらかじめ遺言書によって遺贈する意思を明確にしておきましょう。遺贈することになったら地主さんの承諾を得て建物の所有権移転登記を行い、借地権に関しても移転します。
なお、借地権を遺贈する場合は、やはり譲渡承諾料として借地権価格の10%程度を地主さんに支払うのが一般的です。また、借地権設定者の承諾が得られなかった場合、家庭裁判所に申し立てを行い、借地権譲渡の承諾に代わる許可を得られれば、遺贈することが可能となります。
借地権の相続で起こりやすいトラブル
ここからは借地権の相続手続きを行っていく過程で起こりやすいトラブルを、「地主との間に起こるトラブル」と「相続する人同士で起こるトラブル」という2つの軸で整理していきます。
地主との間に起こるトラブル
まずは借地権設定者、つまり地主との間に起こり得るトラブルについて見ていきましょう。以下のような問題が発生するおそれがあるため、やはり相続の際にはしっかりと地主さんと話し合っておくことが大切です。
名義変更料・承諾料の支払いを要求される
基本的に借地権を相続する際には借地権設定者からの許可は不要で、名義変更料や承諾料を地主さんに支払う義務はありません。しかし、これらの名目で支払いを求められるケースもあり得ます。
法律的な義務はないものの、「支払いません!」と突っぱねてしまうと、後々地主さんとの関係が悪化したりトラブルが発生したりするおそれがあります。法外な金額を請求された場合は別ですが、支払える範囲であれば支払ったほうが後々のリスクを軽減できます。金額や地主さんとの関係などを考慮して支払うかどうか検討してみましょう。
建物の建て替えを拒否される
相続をしたタイミングで自宅を建て替える際には注意が必要です。借地契約書に「建て替える際には地主の承諾が必要」といった内容が記載されているのであれば、必ず地主に許可を取りましょう。また、記載されていなくとも報告をしておかれることをおすすめします。
地主から建て替えの拒否をされるというケースもしばしばあります。その場合はお互いが納得できるよう何度も話し合いを重ねることが大切です。また、承諾料を支払うことで納得してもらえるケースもあるため、必要に応じて提案を検討してみましょう。
家の売却を許可してくれない
家の売却に関しては、借地権が「地上権」になっている場合は地主の許可は不要です。地上権とは工作物(建物)を所有するために他人の土地を借りる物権のことを指します。物件とは物を直接支配できる権利のことです。
一方、「賃借権」となっている場合は地主の許可が必要です。賃借権とは賃貸借契約にもとづいて地権者がその土地を使用できる債権のことです。賃借権では地上権のように土地を支配する権限まではありません。
借地権が賃借権となっていて地主から建て替えの許可が得られなかった場合は、やはり粘り強く交渉・説得するか、承諾料の支払いを検討する必要があります。
相続する人同士で起こる借地権相続トラブル
借地権を相続した場合、以上のような地主さんとのトラブルのほか、相続をする人同士でのトラブルが発生する可能性もあります。ここからは相続人同士でよく発生しがちなトラブルの内容について見ていきましょう。
兄弟・親族同士での共有相続
相続人が被相続人の配偶者とその子ども、あるいはきょうだいなど、複数いる場合はまず「誰が借地権を相続するか?」「どのように遺産を分割するか?」で揉めることがあります。いわゆる相続トラブルと呼ばれるものです。
丸く収めるため、あるいは相続者が決まるまで、借地権を共同で相続するケースも少なくありません。しかし、この場合は後々大きな問題が発生することがあります。たとえば相続人のいずれかが地代や税金を負担しない、建物の建て替えや売却を巡って意見が対立する、共有物分割請求(共有状態の解消を求めること)がなされるなどの事態が想定されます。
相続直後に揉めたくないからと借地権を共有すれば、その場は穏便に済ませられるでしょう。ただし、いつまでもそのままの状態にしていくことはおすすめできません。
借地権の評価方法の違い
相続では借地権を1人の相続人が所有する代わりに、その相続人が他の相続人に対して代償金を支払うといった方法もよくとられます。これを「代償分割」といいます。たとえば被相続人の子ども2人が評価額3,000万円の借地権を代償分割する場合、1人が借地権を所有する代わりに、もう1人の相続人に対して法定相続分に従って1,500万円を支払います。
この際に土地の評価の方法で揉めるケースがよくあります。評価額が低ければ借地権を所有する相続人にとっては支払う代償金は少なくて済むということになります。逆に評価額が高ければ借地権の相続をしない相続人がそれだけ多くの代償金を受け取れることになります。代償金の金額を左右する評価額が大きな揉め事の火種となってしまうのです。
借地権の相続トラブルの対処法
借地権を相続する・した際には、以上のようにさまざまなトラブルが発生するおそれがあります。最後に、トラブルが発生してしまった場合の対処方法についてご紹介します。
法的な手続きに則って相続を進める
相続人同士、あるいは地主と揉めた際には、まずは話し合いで解決することを目指しますが、それでも議論が平行線をたどるケースは珍しくありません。たとえば遺贈する場合に地主が承諾をしなかった場合は、家庭裁判所に借地権譲渡の承諾に代わる許可を申し立てることができます。遺産分割の話がまとまらない場合は、遺産分割調停や審判を利用することが可能です。
このように、法的措置をとり裁判所に仲介してもらって判断を仰ぐというのも一つの手段です。
借地権の評価方法・認識をすり合わせる
特に代償分割を行う際には土地の評価の方法や評価額について揉める傾向が高いです。基本的には借地権の場合、自用地評価額(土地を更地にした場合の地価)に借地権割合(路線価図に記載されている借地権割合)をかけ合わせて算出します。
まずはしっかりとすり合わせを行い、お互いが納得できる方法で評価を進めましょう。不動産会社を介して土地の評価額を算出するのも手です。
専門知識豊富な弁護士に相談する
借地権に関するトラブル、あるいは相続に関するトラブルは、法律に加えて双方の損得勘定が大きく絡んでくるため、当事者同士での解決は非常に難しいのが事実です。
そこで、弁護士に介入してもらうというのも一つの有効な手段といえます。弁護士なら交渉のプロであり、法律や今までの判例に従ってうまく話をまとめてくれる可能性があります。法的措置に移ることも想定して証拠を残しながら交渉にあたるので、後々申し立てや裁判などに発展した場合でも有利に進めることが可能です。
また、当事者同士の話し合いではどうしてもお互いが感情的になった結果、こじれてしまうこともよくあります。第三者である弁護士が間に入ることで、話し合いが進展する可能性も期待できます。
この記事のまとめ
借地権の相続はさまざまなトラブルが発生する可能性があります。当事者同士の話し合いで解決できればいいのですが、揉めに揉めてしまうケースも少なくありません。そこで感情的になってしまえば、より泥沼化することも考えられます。
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弁護士監修記事
弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI
杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応