2023年11月22日
はじめに
リフォームの工事が工期までに終わらない、完了後に思ったような仕上がりになっていないなど、リフォームではトラブルが発生する事例も少なくありません。特にこれらの問題はのちのちの生活にも大きく影響するため、しっかりと解決しておく必要がありますが、果たしてどのように対処すればいいのでしょうか?
この記事では不動産トラブルを得意分野としている弁護士が、リフォームにまつわるトラブルの対応方法について解説します。現在トラブルが発生して困られている方はもちろん、これからリフォーム工事をされる方も必見です。
目次
1.リフォーム工事トラブルでよくある事例
リフォーム工事の際に発生するトラブルにはさまざまな種類があります。特に多いのは「工期の遅延・変更」「リフォーム後に体調不良が発生する」「ずさんな工事・契約とは異なる工事をされた」という3つです。まずは実際によくご相談いただくトラブルの事例について見ていきましょう。
工期の遅延・変更
リフォーム工事に関するトラブルの中でも非常に多いのが工期に関するトラブルです。工事前には依頼者と施工会社の担当者が打ち合わせを行って工事の内容やデザイン、仕様など、さまざまなことを決めます。「いつから工事を始めるか?」「いつまでに完了していつ引き渡すのか?」というスケジュールもその際に決定します。
通常であればあらかじめ決めた予定に沿って工事を行い、引き渡し予定日までに工事が完了して依頼者に引き渡されます。しかし、代金の支払い後工事開始予定日になっても工事が始まらない、急遽「予定よりも工事が長引く」と言われた、工事が中断してしまった、引き渡し予定日になっても工事が完了していないといったトラブルが起こることがあります。事前に施工会社の担当者から丁寧な事情説明があればまだいいのですが、突如工事が止まってしまう、あるいは引き渡し直前になって遅延することが告げられるケースもありました。
天候不良や資材の遅れなどの不可抗力から、施工会社のミスや怠慢、人材不足や倒産といった施工会社の経営上の問題、あるいは最初から依頼者を騙そうという悪意があるケースまで、トラブルの原因はさまざまです。しかし、いずれにしても依頼者にとっては工期が遅れれば生活に影響が出てしまいます。たとえば仮住まいとしてホテルやウィークリーマンションを利用している場合、引き渡しが遅れれば遅れるほど損失も大きくなってしまいます。
リフォーム後の体調不良
リフォーム工事が終わり引き渡しも無事に完了して入居した後に、入居者(依頼者)が体調不良に見舞われることがあります。たとえば目がチカチカする、くしゃみや鼻水が止まらない、頭痛や吐き気がする、喉が異常に乾燥する、肌が痒くなるなどです。こうした症状が発生した場合、「シックハウス症候群」が疑われます。意識障害が発生するなどの重篤化を招くケースや、発がんリスクが高まるなど長期的な健康被害が発生するケースもあります。
シックハウス症候群とは化学物質やカビ、ダニなどの汚染物質によって発生する健康被害です。たとえば建材や接着剤にはホルムアルデヒドやVOCといった化学物質が含まれていることがあり、特に工事完了直後は室内にこれらの物質が漂っていることがあります。通常これらの物質は時間が経過すれば外に排出されるのですが、施工後に換気が不十分な場合、化学物質が大量に含まれている建材が使われている場合、あるいは建物の気密性が高い場合、室内に留まり続けて人体に影響を与えることがあるのです。
これまで健康だったのにも関わらず入居した後に上記のような症状が発症した場合、当該建物の中にいる間のみ症状が発生している場合はシックハウス症候群にかかっている可能性があるため、一度病院を受診するか、市区町村役場や保健センターに相談して建物内の化学物質の測定を行ってもらうことをおすすめします。
ずさんな工事・契約とは異なる工事内容
引き渡し完了後に建物に不具合が起こった、実際の契約とは異なる工事が行われた、イメージしていたものと違った仕上がりになっていたというトラブルもあります。たとえばリフォーム後に雨漏りが発生した、壁紙がすぐに剥がれてしまった、雑な仕上がりになっている、依頼した工事がなされていない、逆に依頼した覚えがない工事まで勝手にされ引き渡し後に高額な追加料金を請求される、契約時に決めた仕様や色と実際の仕上がりが異なっているなど、こちらも事例はさまざまです。
こうしたトラブルの原因としては依頼者と施工会社側の間に見解の相違が生じている、施工会社や作業員がミスや意図的な手抜き工事をしたなどが考えられます。
特に雨漏りや壁紙の剥がれなどがある場合は建物全体への影響も考えられるため、早急に修繕を依頼する必要があります。リフォーム施工会社と依頼者が工事請負契約を締結した以上、施工会社は依頼者に対して契約不適合責任を負わなければならず、契約と異なる工事を行って引き渡した場合、あるいは瑕疵(不具合)が発生した場合、依頼者は施工会社に対して不具合の補修や代金の減額、契約の解除、損害賠償の支払いなどを請求できます。そのため通常であれば施工会社側に過失があるケースならすぐに工事のやり直しに対応してくれるはずです。
しかしながら、不具合が発生したり契約とは異なる工事が行われていたりしたとしても、施工会社が対応してくれないケースもあります。施工会社側が自分こそが正しいと思っている、ミスをしたと認めたくない、資金繰りが悪化して修正工事に対応できない、そもそも最初から悪意をもって依頼者を騙そうとしていたなど、不具合に対応してくれない背景もさまざまです。
2.リフォーム工事のトラブルを未然に防ぐために
ここまででリフォーム工事のトラブル事例を見てきました。依頼者が少し気をつけるだけでもこうしたトラブルを未然に防ぐことが可能です。安心して快適に新しい住まいで暮らすために、ここからはリフォーム工事のトラブルを防ぐポイントについてご紹介します。
施工・工事業者と認識を事前にすり合わせる
まずは施工会社の担当者と依頼者との間でしっかりと認識をすり合わせておくことが大切です。リフォーム工事を行う前にはまず施工会社に問い合わせをして現地調査やヒアリングの上プランの提案や見積もりをしてもらい、さらに打ち合わせを重ねて工事の内容やスケジュール、設備の種類、仕様、デザイン、色などの詳細を決めていきます。かなり細かいところまで詰めていきますが、やはり人と人なので途中で認識の違いや誤解が生じることもあります。
たとえば一口に白色といっても、混じり気のない純白から黄色みがかかったベージュに近い白、少し黒が入ったグレー寄りの白、水色やピンクっぽい白など、さまざまな種類があります。「壁紙は白色で」と言った場合、依頼者はベージュを、施工会社は純白をイメージしているかもしれません。仕上がりのイメージは見本(サンプル)や写真などを用いて伝えれば、こうした見解の相違が生じにくくなります。
また、工事の範囲についても明確にしておきましょう。たとえば依頼者がドアの塗装を両面依頼したと思っていても施工会社は片面のみの依頼だと認識している場合、引き渡し後にトラブルが発生することになります。
他にも工事内容や費用の内訳を確認しておく、工事開始日と引き渡し日を明らかにしておく、品番を控えておく(キッチンや浴室など住宅設備を交換する場合など)といったポイントを意識することで、認識のずれを防ぐことができます。また、少しでも疑問に思ったこと、必ず実現して欲しい要望点などがある場合は、漏れなく担当者に伝えておきましょう。
リフォームの打ち合わせ内容・契約内容は必ず残す
打ち合わせでは詳細まですり合わせを行うとともに、必ずメモをするか録音するなどして話し合った内容を記録しておきましょう。これによって「言った・言わない」のトラブルを防ぐことができます。また、記録として残しておくことで施工会社が提出してきたプランや見積もりが要望通りになっているかどうかも確認でき、不備がある場合は工事前に指摘することができるようになります。施工会社の担当者がしっかりとメモを取っているかどうかも確認しておきましょう。
リフォーム工事の前には工事請負契約を施工会社と締結しますが、その際には必ず契約書に目を通した上で署名・捺印しましょう。仮に契約書の内容に納得できない箇所があったとしても、署名・捺印した時点で契約に同意したとみなされてしまいます。特に金額や工事期間、名義人、支払いの方法、瑕疵があった場合の対応についてはしっかりと確認しておくことが大切です。
工事請負契約書をはじめとした工事請負契約約款、見積書、図面、仕上表などの書類は必ず保管しておきましょう。仮に打ち合わせの記録や書面があれば、施工会社とトラブルになった際に「このように伝えたはずです」「契約ではこうなっています」と主張できるようになります。また、仮に裁判などの法的措置をとる際も証拠として活用することが可能です。逆に記録や書面が残っていないと、施工会社に落ち度があったとしても押し切られるリスクが高くなってしまいます。
完了検査を業者と一緒に行う
リフォーム工事が完了してそのまま引き渡してもらうのは危険です。必ず施工会社の担当者とともに完了検査を行いましょう。仮に仕上がりが契約内容や話し合いで決めた内容と異なっていた場合、不具合があった場合、その場で施工業者に指摘をして対応策を話し合うことができます。完了検査時には契約書をはじめとした書面やメモも持参しましょう。
また、汚れや破損が見つかった場合、引き渡し後に施工会社に問い合わせをしても「お客様が汚されたのでは」と逃げられ泣き寝入りになってしまう可能性があります。完了検査時に汚れや破損等が見つかった場合は言い逃れができないため、対応してくれる可能性が高まります。
善良な施工会社であれば図面どおりになっているか?不具合がないか?社内で工程ごとに検査を行い、工事完了後は最終検査を行った上で、さらに依頼者立ち会いのもとで完了検査を実施し引き渡しという流れをとっています。忙しい場合でも、可能な限り時間をとって完了検査を実施し、ご自身の目でイメージ通りになっているか?不具合がないか?を確認しましょう。また、依頼する前には必ず完了検査に依頼者が立ち会えるかどうかを施工会社に確認しておくことが大切です。多くの施工会社では依頼者立ち会いのもと完了検査を実施している中で、検査への立ち会いを拒む会社は何らかの理由があると考えられます。その会社に依頼するべきかどうかという点も含めて検討されたほうがいいかもしれません。
3.リフォーム工事トラブルが解決しないときには
以上でリフォーム工事に関するトラブルの防止策についてお伝えしてきましたが、現在進行形で施工会社と揉めていたりトラブルが発生したりしている場合はどうすればいいのでしょうか?ここからはリフォーム工事トラブルを解決するための2つの方法についてご紹介します。
クーリングオフをする
クーリング・オフとはいったん契約の申込みや契約の締結をした後でも無条件でそれを撤回したり解除したりすることができる制度です。たとえば営業マンが訪問販売にやってきてしつこく勧誘され、その場で勢いに負けて契約書に署名・捺印してしまった場合でも、クーリング・オフ期間であればその契約はなかったことになります。
クーリング・オフの期間は訪問販売や電話貫通販売、特定継続的役務提供、訪問購入であれば8日間、連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引であれば20日間です。たとえばリフォーム会社の営業マンが自宅に来て契約を迫ったような場合であれば、契約を締結してから8日間は無条件で契約を撤回することができます。
クーリング・オフの手続きとしては書面(はがき)もしくは電磁的記録(メールなど)で相手方に契約を解除する旨の通知をします。通知書には契約の年月日や契約者の氏名、購入した商品名、契約金額などを記載します。はがきで出す場合はコピーして控えをとり、特定郵便や簡易書留などで送りましょう。電磁的記録で通知する場合は、送信したメールやWebサイトのフォームのスクリーンショットなどを保存して、クーリング・オフを通知した記録を残すことが大切です。
なお、クーリング・オフの手続きはご自身で行うことも可能ですが、消費者生活センターでサポートを受けることも可能です。
クーリング・オフについてもう少し詳しく知りたい方は国民生活センター『クーリング・オフ(テーマ別特集)』も参考になります。
リフォーム工事トラブルの専門知識を持つ弁護士に相談する
上記のようにクーリング・オフ制度によって施工会社との契約を解除することはできますが、そもそもクーリング・オフ期間を過ぎている場合や依頼者自らが施工会社を探してリフォーム工事を依頼した場合は適用外となります。工事が完了してから契約を解除するのは容易ではありません。
リフォーム工事は金額が大きく、依頼者としては今後の生活に、施工会社としては経営に大きな影響が出る問題であるため、解決が難航するケースも少なくありません。もし揉めていて解決の糸口が見えない場合は、弁護士に相談してみましょう。
弁護士は法律知識が豊富で交渉にも慣れているため、依頼者の代理として施工会社と話し合うことで解決につながる可能性が高くなります。仮に話がまとまらなかった場合はそのまま法的措置に移行して債務の履行や契約の解除、損害賠償の支払いなどを求めることができます。
ただし、それぞれの弁護士には得意分野があるため、なるべく不動産トラブルの解決実績がある弁護士を選びましょう。また、施工前の打ち合わせ記録、契約書や見積書などの書面、相手との交渉記録などを用意しておくことが大切です。
◆この記事のまとめ
リフォーム工事では「イメージと仕上がりが違っていた」「要望が反映されていない」「工事が工期までに完了しない」など、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。事前に施工会社と詳細をすり合わせる、打ち合わせの記録や書面を残す、完了検査に立ち会うなどの方法でトラブルを防ぐことができますので、リフォーム工事を依頼する際にはぜひ意識しておきましょう。不幸にもすでにトラブルが発生してしまった場合は、早めに専門家に相談されることをおすすめします。
賃貸立ち退きトラブル相談窓口は立ち退き案件をはじめ不動産にまつわるトラブルに特化した法律相談所です。もちろん、リフォーム工事のトラブルに関しても実績が豊富なのでお任せください。不動産トラブルに強い弁護士がご相談者様の代わりとなって問題解決を目指します。初回相談1時間は無料なので、お悩みはお気軽にご相談ください。
弁護士監修記事
弁護士菊地 智史SATOSHI KIKUCHI
杉並総合法律事務所 所属
建物明渡し、更新料請求など借地借家関係の事件を多数解決
宅建士、敷金診断士の知識を活かし、様々なトラブルに対応